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【絶望セーブ】深淵ダンジョンの管理人、捨て子のパパになる 〜最強魔王たちと育てる、パンドラの箱の最後の希望〜  作者: beens
第4章:深淵の女王・新生編

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第31話:天界、ついに降参!? 聖なるお見合いと、パンドラの『反抗期』

 垂直都市ダンジョンの管理事務所に、再び白銀の鳩が舞い降りた。

 しかし、今回運ばれてきたのは宣戦布告でも呪いの書状でもなく、桃色のリボンで結ばれた「親睦会(お見合い)」の招待状だった。

「……『天界の第一王子・ミカエル(三世)と、地獄の至宝・パンドラ様の、未来に向けた清らかなる交流の場を設けたく存じます』……だと?」

 私が読み上げ終わる前に、部屋の空気が絶対零度を突き抜けた。

 ルシファー様が手にしていたティーカップは、その凄まじい魔圧によって分子レベルで分解され、虚空へと消えた。

「管理人、聞き間違いではないな? あの光の羽虫ども、パンドラを『見合い』の場に引きずり出そうというのか……? この私の目の前で……パンドラを、奪おうと……?」

「ルシファーよ、落ち着け。……いや、落ち着けるはずがなかろう。今すぐ天界の門を蹴り破り、その『第一王子』とやらを因果の牢獄に閉じ込めて、一生、石の数でも数えさせてやろうぞ」

 上皇様もまた、背後に無数の亡霊を出現させ、怒りで髪を逆立たせている。


「おじちゃんたち、うるさいよ」

 その時、ソファで本を読んでいたパンドラが、パタンと本を閉じて冷ややかな声を上げた。

 10歳になり、知性と美しさに磨きがかかった彼女の瞳には、かつてのような全幅の信頼……ではなく、少しだけ「面倒くさそうな」色が混ざっていた。

「……えっ。パ、パンドラ……?」

 ルシファー様が、雷に打たれたような顔で硬直する。

「私、もう子供じゃないんだから。天界の王子様がどんな人か、一回くらい会ってみたっていいじゃない。おじちゃんたちがいつも『天界は悪いやつらだ』って決めつけるの、なんだかカッコ悪いよ」

「カッ……カッコ悪い……っ!?」

 ルシファー様の胸に、神の審判よりも鋭い言葉の刃が突き刺さった。

 これが、世に言う『反抗期』の始まりである。

「パパ。私、行ってきてもいいよね? もちろん、パパが一緒ならだけど」

「……ああ。パンドラがそうしたいなら、私は止める権利はないよ」

 私が頷くと、背後でルシファー様と上皇様が「パンドラが自分たちを否定した……」「今日がこの世の終わりか……」と、地獄の隅で膝を抱えて落ち込み始めた。


 数日後、学園の礼拝堂。

 天界が総力を挙げて飾り立てたその場所に、第一王子ミカエルが現れた。

 まばゆい金の髪、どこまでも透き通った青い瞳。背中には汚れなき四枚の翼。彼は優雅な所作で膝をつき、パンドラの手を取ろうとした。

「初めまして、地獄に咲いた奇跡の花、パンドラ様。……貴女の噂は天界まで届いております。……どうでしょう、私と共に光の世界を散歩し、清らかなる縁を結びませんか?」

 完璧な微笑み。完璧なエスコート。

 だが、その背後の物陰では、変装したルシファー様たちが「指一本でも触れたら、この瞬間に学園ごと異次元に飛ばす」という殺意全開の魔法を構えていた。

『……パパ。……あの王子様、キラキラしすぎて、目が、痛い。……ルル、あの羽、むしって食べていい?』

「ダメだよルルちゃん。……でも、確かに少し眩しすぎるね」


 パンドラは、王子から差し出された手を握ることはなかった。

 彼女は王子の顔をじっと見つめ、そして静かに首を振った。

「王子様。お空の上は綺麗かもしれないけど……私、お空はたまに眺めるだけでいいの。私にはね、いつも一生懸命お仕事を頑張るパパと、過保護すぎてたまにうざい(・・)おじちゃんたちと、美味しいものを一緒に食べるルルちゃんがいるんだから」

「……う、うざい……?」

 物陰で、ルシファー様が二度目の精神的致命傷を負った。

「王子様は、自分のことばっかりお話しして、私の大切な人たちのことを一度も聞いてくれなかった。……そんな人とは、お友達にもなれないよ。めっ、だよ」

 パンドラが指を立てて告げると、天界の王子の周囲に張り巡らされていた「魅了の魔法」が、彼女の権能によって粉々に砕け散った。

「な、なんだこの力は……!? 私の神聖なる魅力が……拒絶された……!?」


 結局、お見合いは数分で終了した。

 王子はパンドラの放った「精神的な正論」に打ちのめされ、翼を力なく垂らして天界へ逃げ帰っていった。

「パパ! 私、ちゃんとお断りできたよ。……あ、おじちゃんたち、どうしたの? なんで砂浜の流木みたいに干からびてるの?」

「……パンドラ。今、『うざい』と言ったか……? 私を……あのルシファーを……うざいと……」

「あはは、ごめんね、おじちゃん。でも、たまには自分で決めたいんだもん。……でも、世界で一番大好きなのは、やっぱりみんなだよ!」

 パンドラが満面の笑みで抱きつくと、干からびていた魔王たちは一瞬で全回復し、「やはりパンドラは最高だ!」「次のお見合い相手は私が選別して事前に消しておく!」と、再び活力を取り戻した。

【ログ:天界の懐柔作戦、失敗。パンドラの精神的自立を確認。】

【獲得ポイント:+15,000,000P(王子が味わった『完璧な自分を否定された屈辱』と、魔王たちの『一喜一憂』より)】

【パンドラのステータス:称号『自立する女王』を習得。】

【管理者コメント:娘の『うざい』の一言で、地獄の階層が二つほど消滅しかけました。天界の王子様も気の毒ですが、パンドラの心は、どんな神の輝きよりも深い愛で守られているようです】

「パパ。明日はね、アレックス君に教えてもらったお花を、みんなで植えようね!」

「ああ。……ルシファー様、その穴、泣きながら掘るのをやめてください。アレックス君が怯えています」

 深淵の日常は、娘の成長と共に、より複雑で、より温かいものへと変わっていく。

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