第28話:地獄の修学旅行!? 第4階層・リヴァイアサンの『海上遊園地』へ!
学園での恋文騒動以来、管理事務所にはどこか刺々しい空気が漂っていた。
ルシファー様は「男という種族の脆弱性と有害性」についてパンドラに講義しようとし、上皇様は「悪い縁を切り刻む呪符」をパンドラの通学鞄に忍ばせようとして、私に止められる……そんな毎日だ。
「……パパ。おじちゃんたち、なんだかずっと怒ってるね。私、何か悪いことしちゃったのかな?」
10歳のパンドラが、不安そうに私の袖を引く。その隣では、ルルが退屈そうに自分の影を食べて遊んでいた。
「そんなことないよ、パンドラ。……よし、今日はみんなで『遠足』に行こう。第4階層のリヴァイアサンさんが、面白いものを作って待ってくれているそうなんだ」
『……海? ……ルル、お魚、たくさん食べたい。……大きなクジラ、丸焼き、いい?』
「あはは、リヴァイアサンお姉様に怒られない程度にね」
第4階層:静謐なる深海庭園……改め『蒼穹の海園』
転移門を抜けた先には、いつもの静かな深海ではなく、眩い太陽の光(魔王たちの魔力による疑似太陽)が降り注ぐ、南国の楽園が広がっていた。
「ようこそ、パンドラ。そして管理人。……少し、張り切りすぎてしまったかしら?」
波打ち際で私たちを迎えたのは、銀髪を潮風になびかせたリヴァイアサンだった。彼女は巨大な海蛇の真の姿を隠し、清楚な白いワンピース姿で微笑んでいる。
彼女の背後に広がるのは、魔法で固められた蒼いサンゴ礁の道と、海の上に浮かぶ巨大な「遊び場」だった。
「わぁぁ……! パパ、見て! メリーゴーランドが海の上を回ってるよ!」
そこには、本物のクラーケンやシーサーペントを、リヴァイアサンが「教育(物理)」して大人しくさせた『魔獣回転木馬』。
海水を高く噴き上げ、虹の橋を作る『水精のジェットコースター』。
すべてが幻想的で、地上のどんな遊園地よりも豪華な『海上遊園地』が完成していた。
魔王たちの「休日」
「……ふん、水遊びか。幼稚だな」
文句を言いながらも、水着(という名の漆黒の鎧風水着)に着替えたルシファー様が、腕組みをして現れた。その背後には、浮き輪を持った上皇様と、砂浜に穴を掘って埋まっているフェンリル(頭だけ出している)もいる。
「ルシファー様、文句を言いながらも一番楽しそうな格好をしないでください」
「黙れ、管理人。私はパンドラが溺れぬよう、波の動きを監視しているだけだ。……おい、リヴァイアサン! パンドラが乗るあのクラーケン、少し揺れが激しくないか? 今すぐ私が足を三本ほど間引いてやろう」
「やめてください! せっかくの遊具が食材になっちゃう!」
ルルは、遊園地のあちこちにある「屋台」に夢中だった。
といっても、売っているのは普通のかき氷ではない。
「……これ、おいしい。……七色のアメーバの、ひんやりシロップ。……パパ、おかわり」
第4階層特産の魔力を帯びた氷を、ルルは山のように積み上げて食べている。
「ルルちゃん、お腹壊さないでね? ……あ、パパ! あっちに大きな滑り台があるよ! 一緒に滑ろう!」
パンドラに手を引かれ、私は『大渦巻きのウォータースライダー』へと向かった。
それは、次元の歪みを利用して加速し、最後はクジラの潮吹きで空高く舞い上がるという、心臓がいくつあっても足りないようなアトラクションだった。
「いくよ、パパ! ――せーのっ!」
ドボォォォォォンッ!!
水飛沫と共に、パンドラの弾けるような笑い声が海に響く。
彼女が笑うたびに、第4階層の魔力が活性化し、サンゴが美しく光り輝く。リヴァイアサンはその光景を、慈母のような眼差しで見守っていた。
日が暮れ始め、遊園地全体が魔法の灯火で照らされる頃。
私たちは、海の底が見える透明なカフェテラスで休憩していた。
「管理人。パンドラの『箱』は、最近落ち着いているようね」
リヴァイアサンが、静かに紅茶を差し出しながら言った。
「ええ。学園での経験が、彼女に『自分を制御する力』を与えているようです。……でも、彼女が成長するほど、天界の焦りも強くなるでしょうね」
「……その時は、この海の底に沈めてあげるわ。天界の軍勢もろともね。……パンドラは、私たちの『宝物』だもの」
その言葉に、隣の席でパフェを頬張っていたルシファー様と上皇様も、無言で深く頷いた。
「パパ! 今日は本当にありがとう! 私、おじちゃんやお姉ちゃんたちとずっと一緒にいたいな。……ずっとずっと、こうやって笑ってられたらいいのに」
パンドラが、夕闇に染まる海を見つめて呟く。
その純粋な願いが、この残酷な世界の理をいつか変える日が来るのだろうか。
【ログ:第4階層への修学旅行、大成功。】
【獲得ポイント:+10,000,000P(リヴァイアサンが注ぎ込んだ魔力と、パンドラの極上の幸福より)】
【パンドラのステータス:称号『蒼い海の女王』を習得。】
【管理者コメント:リヴァイアサン様が『パンドラ専用の別荘を海底に建てる』と張り切っていますが、維持費を考えると眩暈がします。……まあ、今日ばかりは、私も少しだけ波の音に癒されることにしましょう】
「パパ、次はね、ルルちゃんと一緒に『お空の島』に行ってみたいな!」
「……それは天界への殴り込みにならないかな? 検討しておくよ」
休息の時間は終わり、物語は再び、外界の荒波へと向かっていく。
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