第27話:学園の王子様!? パンドラへの『恋文』と、暗黒に染まる魔王たち
病み上がりで管理業務に復帰した私のデスクに、それは置かれていた。
淡いピンク色の封筒。丁寧に封蝋が施され、かすかに花の香りが漂う……地獄の住人なら一秒で焼き捨てるような、あまりにも「純愛」な代物だ。
「パパ、それね、お花のクラスの王子様……じゃなかった、レオナルド君からもらったの。放課後、中庭で待ってるんだって。これって、決闘の申し込みかな?」
首を傾げる10歳のパンドラ。その後ろでは、ルルがその封筒を「毒物」でも見るような目で見つめている。
『……パパ。……これ、危険。……お姉ちゃんを、連れ去る、呪文の匂い。……ルル、そのレオナ……なんとか、今すぐ、噛み砕いてくる』
「待ちなさいルル! まだ決まったわけじゃないから!」
私がパンドラをなだめていると、案の定、事務所の壁を透過して「彼ら」が現れた。
「聞いたぞ管理人。パンドラに求愛する不届き者が現れたそうだな。その男の血筋を今すぐ調べろ。どこの王家だ? 太陽の王国か? よかろう、今日からそこを『永遠の夜の国』に変えてやろう」
ルシファー様が、見たこともないほど禍々しい漆黒の魔力を指先から漏らしている。
「待て、ルシファーよ。物理的な滅びは生ぬるい。じーじがその男の魂を100枚に下ろし、一枚ごとに『パンドラ以外の異性を一生視認できなくなる呪い』をかけて、孤独の中で1000年ほど反省させてやろう」
上皇様も、扇子をバキリと握り潰しながら不吉な提案をする。
「皆さん、落ち着いてください! 相手はまだ子供です、ただの初恋かもしれないじゃないですか!」
「初恋だと? パンドラに恋をする資格があるのは、この宇宙を創造した神……いや、神も不合格だ。……とにかく! パンドラを、あの温室育ちの羽虫(王子)に触れさせるわけにはいかん!」
決戦:放課後の中庭
そして放課後。
学園の中庭、美しい噴水の前に、金髪の美少年レオナルド王子が立っていた。彼は緊張で震えながらも、一輪の白バラを手に、パンドラの到着を待っている。
だが、彼には見えていなかった。
パンドラの背後の「影」の中に、この世の終わりを象徴するような恐ろしい面々が並んでいることを。
• ルシファー様: 特別講師のフリをして、物陰から「視線だけで相手を石化させる」魔法を充填中。
• 上皇様: 近くの木に擬態し、男が口を開いた瞬間に「舌がもつれる呪い」をかける準備完了。
• ルル: 地面から影の触手を伸ばし、男の足首をいつでも奈落へ引きずり込めるよう待機。
• 私(管理人): 「警察を呼ぶべきか、それとも親として殴るべきか」を真剣に悩んでいる。
「レオナルド君、お待たせ! お手紙のお返事、持ってきたよ!」
パンドラがレオナルドの前に立つ。レオナルドは顔を真っ赤にして、絞り出すような声で言った。
「パ、パンドラさん! 僕、君のことが……世界で一番、大切なんだ! 卒業したら、僕のお城に……」
その瞬間、周囲の気温がマイナス200度まで下がった。
ルシファー様が我慢できずに「神滅級」の殺気を放ちかけたその時、パンドラがにっこりと笑った。
「ありがとう! レオナルド君。私もレオナルド君のこと、お友達として『二番目』に大好きだよ!」
「えっ……二番目?」
「一番目はね、パパ! 三番目はルルちゃんで、四番目はおじちゃんたち。レオナルド君は、昨日お掃除を手伝ってくれたから、今日から特別に二番目にしてあげるね!」
レオナルド王子は、あまりにも純粋で巨大すぎる「家族愛の壁」の前に、言葉を失った。
「そ、そうか……。お父様が、一番……」
「うん! パパは世界で一番格好良くて、優しくて、無敵なんだよ!」
その言葉を聞いた瞬間、物陰で殺意を煮詰めていたルシファー様たちが、一転して「……勝った」「さすがパンドラだ」「管理人の地位は不動か……」と、別の意味で涙を流しながら崩れ落ちた。
レオナルド王子は、パンドラの背後に見える「自分を殺そうとしている数々の神話級の気配」を本能で察知したのか、「……友達から、お願いします」とだけ言い残して、脱兎のごとく逃げ出していった。
【ログ:パンドラへの初恋文事件、解決。】
【獲得ポイント:+8,000,000P(管理人と魔王たちが味わった『娘を奪われる恐怖』という史上最大の絶望より)】
【パンドラのステータス:称号『天然・男殺し』を習得。】
【管理者コメント:娘に『世界で一番』と言われて鼻の下を伸ばしているルシファー様たちですが、一番は私なので、後でまた嫉妬でダンジョンが揺れそうです。……とりあえず、レオナルド君の安全を確保するために、彼の王家に『強力な守護霊(という名の監視役)』を派遣しておきました】
「パパ、二番目がいっぱい増えたら、みんなでお城に住めるかな?」
「ははは……その時は、パパが新しいお城を地獄に建てるから大丈夫だよ」
垂直都市の管理業務。
それは今や、寄ってくる悪い虫(人間・天使・王子)を払い続ける、終わりのない「防衛戦」へと変貌していた。
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