第24話:緊急事態! 学園を包む『神の結界』と、パンドラ第2の覚醒
学園祭の終わりの鐘が鳴り響く。
夕焼けに染まる校庭で、パンドラはクラスメイトからもらった手作りのリストバンドを眺め、幸せそうに微笑んでいた。
「パパ、今日のこと、絶対忘れないよ。……あ、見て、お月様が出てきたのかな?」
パンドラが指差す先。空には月ではなく、巨大な「白い亀裂」が走っていた。
次の瞬間、学園全体を包み込むように、白銀の光の柱が四方に立ち昇る。
「……天界の『聖絶隔離結界』か。不粋な真似を」
ルシファー様が空を見上げ、不快そうに目を細めた。
学園の外の景色が歪み、真っ白な虚無へと置き換わっていく。この学園そのものが、世界の因果律から切り離され、天界の「隔離病棟」へと変えられてしまったのだ。
「管理人殿、これは不味いな。この結界内では、我ら魔のモノの権能は大幅に減衰される。神の法が物理法則を上書きしておるわ」
上皇様が扇子を固く握りしめる。確かに、私の管理タブレットにも『サーバー切断:上位権限によるアクセス制限』の警告が赤く点滅していた。
光の渦の中から、数千の翼を持つ天使の軍勢と、その中心に立つ一人の男が降りてくる。
『七大天使』が一人、神の正義を司るウリエル。
「『箱』の娘よ。そして地獄の番人よ。これ以上の放置は世界の均衡を損なう。その娘を天界の浄化槽へ引き渡せ。さもなくば、この結界内の命、すべてを光の塵に還す」
ウリエルの言葉と共に、怯える生徒たちの足元から光が溢れ、彼らの生命力をじわじわと吸い上げ始めた。結界そのものが「燃料」として学園の人間を利用しているのだ。
「パパ……みんなが苦しそう。……ルルちゃんも、苦しい?」
『……う……。……これ、おいしくない。……お腹、痛い……』
聖なる光に当てられ、ルルの身体が泥のように崩れかかる。
その光景を見た瞬間、パンドラの瞳から、暖かな光が消えた。
「……やめてって、言ったのに」
パンドラが静かに歩き出す。
彼女の足元から、漆黒の魔力ではなく、見たこともない「無色」の波動が広がった。
「パンドラ、待て! 今の君が力を使えば、箱の中身が……!」
「大丈夫だよ、パパ。……私、分かったの。私が壊したいのは世界じゃない。……みんなを悲しませる、この『勝手な決まり事』だよ」
パンドラが両手を広げる。
彼女の中に眠る「パンドラの箱」の権能。それは厄災を振りまくことではなく、【箱の外にある現実を、箱の中の希望で上書きする】こと。
「書き換え……開始!」
パンドラの背後に、巨大な「本」のような幻影が現れる。
ウリエルが展開した聖なる法典が、パンドラの意志によってページをめくられ、文字が書き換わっていく。
「な……!? 神の法を上書きしているだと!? 貴様、何を変えた!!」
「『お腹が痛くなる光』は禁止。……ここは、パパとおじちゃんたちと、みんなで笑う場所なんだから!」
パリンッ!!
空を覆っていた白銀の結界が、カラフルなキャンディ細工のように砕け散った。
それだけではない。天使たちの鎧はフリル付きのパジャマに変わり、彼らが手にしていた聖剣は、なぜか大きな「ハリセン」へと変貌していた。
「な、なんだこの格好は……! 力が入らぬ!?」
「……ぷっ。ルシファー様、見てください。あの大天使、イチゴ柄のパジャマですよ」
「……管理官よ。笑うなと言いたいが、無理だ。……パンドラ、よくやった。これなら、我らの魔力も減衰せん」
形勢は一変した。
法を書き換えられ、無力な「パジャマ集団」と化した天使軍勢の前に、激怒した魔王たちが並び立つ。
「さて……我が娘を泣かせ、ルルに腹痛を負わせた罪。万死では生ぬるいな」
ルシファー様の背後に、結界の干渉を受けない純粋な「終末の炎」が灯る。
「じーじも怒っておるぞ。……お主ら、その格好のまま地獄の広報誌の表紙にしてやろうか」
上皇様の怨念が、ハリセンを持った天使たちを追い詰め始めた。
『……お姉ちゃん。……あのアヒルさんたち……今なら、食べても、いい?』
「いいよ、ルルちゃん。でも、お腹壊さないようにね」
その後、学園は(パンドラの権能によって記憶を一部調整された上で)平穏を取り戻した。
ウリエルたちは、パジャマ姿で天界へ強制送還されるという、神話史上最大の屈辱を味わうことになったのである。
【ログ:天界の隔離作戦を阻止。学園内の法を一時的に『パンドラ仕様』へ上書き。】
【獲得ポイント:+3,000,000P(天使たちの『羞恥』と『絶望』より)】
【パンドラのステータス:スキル『世界編集』を習得。】
【管理者コメント:娘が最強のデバッガーになりました。もはや神ですら彼女の前では無力です。……ただ、私の給与明細を書き換えるのだけはやめてね、パンドラ】
「パパ! 明日はね、ルルちゃんと一緒に、壊れちゃった噴水を直すんだ!」
「ああ、お手柔らかにね」
パンドラの力は、確実に「箱」の核心へと近づいている。
それは世界を滅ぼす牙か、それとも救済の光か。
確かなのは、彼女を敵に回した天界には、これから「果てしない嫌がらせ」が待っているということだけだった。
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