第21話:最強の転校生!? パンドラ、地上の魔法学園へ(魔王の護衛付き)
「パパ! 見て見て、この制服! スカートがふわふわしてて、とっても可愛いよ!」
管理事務所の鏡の前で、パンドラがくるりと回る。
10歳の少女へと成長した彼女が身に纏っているのは、地上で最も権威ある『聖アウレオール魔法学園』の制服だ。白を基調とした高貴なデザインだが、その胸元にはこっそりとルシファー様が「地獄の加護(物理防御:無限)」を付与したブローチが光っている。
『……パパ。……ルル、これ、窮屈。……お腹、空いた。……学校、おいしい?』
その隣で、同じ制服を着たルルが不満げにネクタイを弄っている。彼女はパンドラよりも少し幼い、9歳ほどの外見に擬態していた。
「ルルちゃん、学校は食べる場所じゃないよ。お友達を作ってお勉強する場所なんだから」
「そうだよ、二人とも。いいかい、地上では君たちの力は『異常』なんだ。魔法を使う時は、一番弱い初級魔法を、さらに1万分の1くらいに手加減して使うんだよ。分かったね?」
私は胃を痛めながら言い聞かせる。今回の「学園潜入」の目的は、天界の影響力が強い地上組織の調査。……なのだが、最大の問題は彼女たち本人ではない。
「……管理人。準備は整った。私も『特別外部講師』として学園に籍を置いたぞ。偽名は……そうだな、『ルシフェル・モーニングスター』だ。格好良すぎて目立ってしまうのが悩みだがね」
完璧な教員スーツを着こなしたルシファー様が、ドヤ顔で現れる。
「私は学園の裏山に住み着く『謎の隠居賢者』として登録しておいた。パンドラに何かあれば、即座に都ごと呪い殺してやるから安心せよ」
上皇様も、不吉な笑みを浮かべて扇子を振る。
「……皆さん、潜入の意味を分かってますか? 目立っちゃダメなんです。パンドラの『普通の女の子として過ごしたい』という願いを叶えるための学園生活なんですから!」
魔法学園:クラス分け試験
学園の講堂。そこには地上の貴族やエリートの子供たちが集まっていた。
転入生として紹介されたパンドラとルルに、周囲の視線が突き刺さる。
「おい、あの銀髪の美少女、何だあの魔力は……。測定器がさっきから変な音を立ててるぞ」
「隣の黒髪の子も不気味だ。影が時々、笑っているように見えないか?」
ざわつく生徒たちの中、傲慢そうな貴族の少年がパンドラの前に立ち塞がった。
「ふん、どこの馬の骨か知らんが、この『聖アウレオール』にコネで入ったわけじゃあるまいな? 転入したければ、魔力測定で私の『2000(天才級)』を超える数値を出してみせろ!」
少年が指差すのは、巨大な魔力測定用の水晶。
パンドラは私の方をチラリと見た。私は「手加減、手加減だよ!」とジェスチャーを送る。
「……えっと、えいっ」
パンドラが、水晶にそっと指先で触れた。
彼女が意識したのは、ルシファー様から教わった「深淵の極大魔法」ではなく、朝、庭にいたアリさんに挨拶する程度の微弱な意識。
――パキィィィィィィィン!!!
水晶は耐えきれず、一瞬で粉々に粉砕された。それどころか、衝撃波で講堂のステンドグラスがすべて吹き飛び、周囲の教師たちが「神の再来か!?」と叫んで膝をつく。
「……あ。パパ、ごめんなさい。……ちょっとだけ、アリさんの元気が良すぎたみたい」
「……(2000どころか測定不能だよ……)」
『……次、ルル。……お腹空いた。……これ、食べていい?』
ルルが水晶の破片を拾おうとするのを、私は必死で止めた。
波乱の幕開けとなったが、二人は無事に同じクラスへ。
最初の授業は、自分に懐く魔獣を呼び出す『召喚魔法』だった。
「さあ、皆さんも自分のパートナーを呼んでみましょう。強力な魔獣を呼べる者ほど、将来の聖騎士候補です!」
生徒たちが次々とレッサーウルフや火トカゲを呼び出す中、パンドラが呪文を唱える。
「えっと……わんわん、来てー!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
学園の校庭が物理的に陥没し、次元の裂け目から「本来なら世界を滅ぼす終末の狼」――フェンリルが、首に『パンドラ大好き』と書かれたリボンを巻いて飛び出してきた。
「グルゥゥゥゥ(パンドラ様ぁぁぁ! 会いたかったわぉぉぉん!)」
「ひ、ひぃぃぃっ! 神話級の魔獣!? なぜこんな場所に!?」
教師が失神し、生徒たちがパニックで逃げ惑う。
「ダメだよ、わんわん! 小さくなってって言ったでしょ!」
パンドラがフェンリルの鼻先をぺちんと叩くと、世界を喰らう牙を持つ狼は「クゥン……」と情けない声を出し、一瞬でチワワサイズに縮んだ。
『……お姉ちゃん。……それ、食べてもいい? ……ルル、お腹、限界』
ルルが足元の影から、クトゥルフ様の触手の一部(おやつ用)を取り出そうとしたところで、私は強引に割って入った。
「はい! 授業終了です! 転入生は少し疲れが出ているようなので、保健室……いえ、管理事務所(地獄)に帰ります!」
放課後:学園の裏側
なんとか初日を終え、パンドラとルルは寮への帰り道を歩いていた。
その時、パンドラの足元に一通の黒い手紙が落ちてきた。
「……『偽りの希望に踊らされる哀れな箱の娘へ。今夜、時計塔へ来い。お前の本当の正体を教えてやる』。……パパ、これなあに?」
パンドラの瞳に、少しだけ「恐怖」ではない、未知への好奇心と、かすかな不安が混ざる。
天界の息がかかった学園の闇。そこには、パンドラ自身も知らない「パンドラの箱」の真実を知る者が潜んでいた。
「……パンドラ。それ、おじちゃんたちには内緒だよ? ……特におじちゃんたちが知ったら、この学園が今夜中に地図から消えちゃうからね」
私は、タブレットで学園の地下に広がる「不自然な絶望ポイント」を感知していた。
【ログ:学園生活スタート。初日で学園の備品の半分を破壊。】
【獲得ポイント:+500,000P(生徒と教師たちの『常識の崩壊』より)】
【パンドラのステータス:称号『学園の(物理的な)女王』を習得】
【管理者コメント:目立たないようにと言った矢先にこれです。ですが、学園の地下に蠢く『天界の実験場』の気配……。どうやら、ここは単なる学校ではないようです】
「パパ。私、戦うのは嫌だけど……パパとルルちゃんを守るためなら、ちょっとだけ『めっ』ってしちゃうかも」
パンドラの背中の翼が、夕闇の中で一瞬だけ鋭く輝いた。
笑いと恐怖の学園生活は、まだ始まったばかり。
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