第19話:地獄の姉妹喧嘩!? ルルの反抗期と、パンドラ涙の鉄拳制裁!
垂直都市の管理事務所に、かつてない不穏な空気が流れていた。
ルシファー様が優雅に淹れたはずの紅茶が震え、第1階層の竹林からはざわざわと竹が擦れ合う「恐怖の音」が聞こえてくる。
「……パパ。ルルちゃんが、私の大事なものを食べちゃったの」
パンドラが、目に涙を溜めて私の服の裾を引いた。
彼女の手には、ボロボロになった「運動会の金メダル(折り紙製)」が握られていた。パンドラが私やおじちゃんたちとお揃いで作った、宝物だ。
『……お、ねぇちゃん……うるさい。……あれ、おいしそう、だったから……。ルル、悪くない……全部、食べたい……』
対面に立つルルは、頬を膨らませてそっぽを向いていた。
普段はパンドラの後ろを付いて回る健気な妹分だが、今日は「暴食」の本能が強く出ているのか、それとも魔王特有の「反抗期」が早すぎるのか、言葉に刺がある。
「ルルちゃん、ダメって言ったでしょ! それは食べちゃいけない『思い出』なんだよ!」
『……オモイデ、いらない。……ルル、もっと、強い力、食べたい。……おねえちゃん、邪魔……!』
その瞬間、ルルの影がドロリと広がり、巨大な「顎」となってパンドラに襲いかかった。
第3階層:大激突
「大変だ! パンドラとルルが第3階層の『絶望食堂』で殺りあっているぞ!」
ベルゼブブおじさんの叫び声が響く。
私が駆けつけると、そこはもはや食堂ではなかった。
パンドラの漆黒の翼から放たれる「拒絶の光」と、ルルの変幻自在な「暴食の触手」が激突し、周囲の空間がガラスのように砕け散っている。
「待て! 二人とも、やめなさい!」
私が仲裁に入ろうとすると、横からルシファー様が腕を掴んで止めた。
「待て、管理人。これは……彼女たちに必要な通過儀礼だ。魔王の血を引く者が真の絆を結ぶ時、言葉など不要。拳(魔力)で語り合うしかないのだ」
「じーじも同感よ。……しかしパンドラ、あの足捌きは教えておらんが……さてはフェンリルに教わったな?」
魔王たちが過保護を忘れて見守る中、喧嘩はクライマックスを迎えていた。
ルルの触手がパンドラの肩をかすめ、ドレスのレースが千切れた。
パンドラの動きが一瞬止まる。彼女の瞳から、ボロボロと大きな涙が溢れ出した。
「……ルルちゃんの、ばかぁぁぁ!!」
パンドラが地面を蹴った。
それは魔力による攻撃ではない。ただの、全力の「突撃」だった。
驚愕するルルの懐に飛び込み、パンドラはその小さな拳を振り上げた。
「これもお仕事! これもお姉ちゃんの役目なんだからっ!!」
ドゴォォォォォォォォォン!!!
パンドラの拳がルルの額に直撃した。
アザトース様直伝の「次元の重み」を乗せた一撃――通称『お姉ちゃんの鉄拳制裁』。
ルルの擬態が耐えきれず霧散し、彼女は元の「黒いぷにぷにした塊」に戻って床を転がった。
静寂が訪れる。
パンドラは拳を握ったまま、わあわあという声を上げて泣きじゃくった。
「う、うえぇぇん! ルルちゃんのバカ! メダル、また一緒に作ろうと思ってたのにぃ!」
その泣き声を聞いて、床に転がっていたルルが、ゆっくりと人の形に戻った。
彼女の紫の瞳には、パンドラと同じように涙が溜まっていた。
『……ねぇ、ちゃん……。……ごめん、なさい……。……ルル、お腹、空いて……おねえちゃん、大好き、なのに……意地悪、した……』
ルルがトコトコと歩み寄り、パンドラの服を掴む。
パンドラは泣きながらも、ルルをぎゅっと抱きしめた。
「もう……次は、メダルじゃなくて、パパが作る特大オムライスを食べようね?」
『……うん……。……ルル、お姉ちゃんと、一緒……食べる……』
管理事務所:夕暮れ
その日の夕食。管理事務所のテーブルには、仲良く並んでオムライスを頬張る二人の姿があった。
「パパ、見て! ルルちゃん、ピーマンも食べられたよ!」
『……にがい……けど、お姉ちゃん、見てるから……食べる……』
私は二人の頭を同時に撫でた。
ボロボロになった食堂の修理見積書(ベルゼブブからの請求)を見て胃が痛むが、この平和な光景には代えられない。
「ルシファー様。通過儀礼は終わったようですよ。……修理費、少し持ってくれますか?」
「ふん、貸しにしておこう。……だが、あの『鉄拳』。あれは将来、私でも防げそうにないな」
ルシファー様が苦笑いしながら、パンドラが新しく作った「ルル用」のメダルを眺めていた。
【ログ:姉妹喧嘩が終結。絆の強さが+100されました】
【獲得ポイント:+40,000P(食堂崩壊による絶望……を上回る、魔王たちの『尊い』という歓喜より)】
【パンドラのステータス:スキル『お姉ちゃんの鉄拳』を習得】
【管理者コメント:ルルが反抗期を終えたようで安心しましたが、パンドラのパンチ力が確実に上がっています。怒らせないように気をつけよう……】
「パパ、明日はルルちゃんと一緒に、お外で綺麗なお花を摘んでくるね!」
パンドラの笑顔は、今日も地獄の隅々まで「希望」という名の光で照らしていた。
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