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【絶望セーブ】深淵ダンジョンの管理人、捨て子のパパになる 〜最強魔王たちと育てる、パンドラの箱の最後の希望〜  作者: beens
第2章:見習い管理人編

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第17話:地獄の健康診断? パンドラの『はじめての歯医者さん』は大騒動!

 事の始まりは、朝食の後の何気ないパンドラの仕草だった。

 ベルゼブブおじちゃん特製の『奈落蜂蜜のパンケーキ』を頬張っていた彼女が、ふと小さな手で右の頬を押さえたのだ。

「……パパ、ここ、なんか「むずむず」する」

 その瞬間、ダイニングにいた全階層主の動きが止まった。

 ルシファー様はフォークを落とし、上皇様は扇子を落とし、フェンリルは食べていた巨大な骨を噛み砕いた。

「……何だと? むずむずする……だと?」

 ルシファー様の瞳が、かつて神との戦争を決意した時のような、鋭い光を放つ。

「管理人! 今すぐ『神霊級・口腔内スキャン』を起動しろ! 寄生虫か? それとも天界の刺客が呪いを打ち込んだのか!?」

「落ち着いてください。ただの『生え変わり』か、あるいは……おやつを食べ過ぎたせいでの虫歯でしょう」

 私は冷静にパンドラの口の中を覗こうとした。

 だが、その私の手に握られた小さな手鏡と「歯医者さんセット(管理者ショップで100P)」を見た瞬間、パンドラの顔が真っ青になった。

「……それ、なに? 『ちっくん』するやつ?」

「いや、これはライトで照らすだけだよ、パンドラ」

「うそだ! その鏡の裏に、怖いトゲトゲが隠れてるんだ! じーじが言ってたもん、お医者さんは痛いことをするお仕事だって!」

 上皇様、なんて余計なことを教えてくれたんですか。

 パンドラは椅子から飛び退くと、背中の黒い翼を全開にした。

「いやぁぁぁ! 歯医者さんなんて、ぜったい嫌ぁぁぁぁ!!」

 ドゴォォォォォォン!!

 叫びと共に放たれた無意識の魔圧で、管理事務所の防音壁が消滅した。

 パンドラはそのまま、光の速さ(ルシファー直伝)で第1階層へと逃げ出した。

第1階層:竹林の鬼ごっこ

「パンドラ! 待つんだ、治療をしないと将来の美貌に影響が出るぞ!」

 ルシファー様が、白衣(自作)をなびかせながら空を舞う。

「きらきらおじちゃん、嫌い! 痛いのはポイして!」

 パンドラが手を振ると、上空に「拒絶の結界」が展開され、ルシファー様が正面衝突して弾き飛ばされた。

「ぐわっ……! なんという強固な意志……。さすがは私の……いや、今はそれどころではない! 上皇、そっちへ行ったぞ!」

 竹林の影から上皇様が呪符を手に現れる。

「パンドラよ、観念せよ。痛くないように、じーじが意識を100年ほど飛ばしてやろう」

「それじゃ死んでるのと一緒でしょ! じーじのばかー!」

 パンドラが地面を蹴ると、竹林全体がパズルを解くように組み替わり、上皇様は竹の迷路の中に閉じ込められた。

第5階層:わんわんの説得

 最終的にパンドラを追い詰めたのは、第5階層の凍土だった。

 そこには、山のような巨体に戻ったフェンリルが、逃げ道を塞ぐように座っていた。

「わんわん……どいて。私、あのアヒルさんみたいな『キーン』って音がする機械、嫌いなの」

『……クゥーン(パンドラ。痛いのは一瞬だ。俺が後ろで、毛皮をモフモフさせてやるから)』

「……ほんと? ずっと、一緒にいてくれる?」

 フェンリルの慈愛に満ちた(?)説得に、パンドラがようやく立ち止まった。

 だが、そこにクトゥルフ様が「よかれと思って」名状しがたき麻酔用触手をニュルリと伸ばしたのが運の尽きだった。

「ひ……ひぎゃああ! 触手が、触手が襲ってきたー!!」

 パンドラの恐怖が限界を突破し、第5階層に「氷河期」が再来した。

管理事務所:パパの出番

 結局、パニックに陥った全階層主をなぎ倒し、ボロボロになったパンドラを抱き上げたのは、私だった。

「パパ……。みんな、私をいじめるの。怖いお医者さんに連れて行くの……」

 私の胸で泣きじゃくるパンドラ。背後では、ルシファー様たちが地面に伏しながら「嫌われた……」「もう終わりだ……」と絶望のどん底に落ちている。

「パンドラ。怖いのはわかるよ。でも、パパが自分で診るから。おじちゃんたちは全員、外に閉め出しておく。それでどうかな?」

「……パパがやるの?」

「うん。私は君のパパで、このダンジョンの管理人だからね。君を痛くするようなことは絶対させないよ」

 私は彼女を診察台(という名の私の膝の上)に座らせ、魔王たちを「権限」で部屋から追い出した。

 数分後。

「はい、おしまい。……ほら、これだよ」

 私が見せたのは、小さな、真珠のように輝く乳歯だった。

「……あれ? 痛くない」

「もう抜けそうだったんだよ。パンドラの成長が早すぎて、新しい歯が下から押し上げてたんだね。虫歯じゃなかったよ」

 パンドラは鏡で自分の口を見て、欠けた歯の隙間を指で触り、ようやく「にぱーっ!」と笑った。


 扉が開くと、そこには壁に耳を当てて中の様子を伺っていた魔王たちが、雪崩のように倒れ込んできた。

「パンドラ! 無事か!? 歯は、私の手でダイヤモンドの被せ物を……」

「ルシファーおじちゃん、見て! 歯、抜けたよ! これ、お屋根の上に投げるんだよね?」

 パンドラの笑顔を見た瞬間、魔王たちの絶望は消し飛び、代わりに歓喜の魔圧で事務所が今度こそ完全に崩壊した。

【ログ:パンドラの初めての歯の生え変わり、成功。】

【獲得ポイント:+30,000P(魔王たちの「恐怖」と「歓喜」のギャップより)】

【パンドラのステータス:『乳歯』が『神鋼の永久歯』へ進化中】

【管理者コメント:抜けた乳歯を「国宝として祀る」と言い出した上皇様とルシファー様を止めるのが一番大変でした】

「パパ、次はね、お耳のお掃除もしてほしいな!」

 その言葉に、再び魔王たちが「耳かき職人」を自称して争い始めるのを、私は遠い目で眺めていた。

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