第14話:地獄の大運動会! パンドラの応援で魔王たちが本気を出しすぎる!?
事の始まりは、パンドラが本棚で見つけた一冊の古い絵本だった。
そこには、地上の子供たちが泥だらけになって走り、玉を転がし、最後には金色のメダルをもらう「運動会」の様子が描かれていた。
「パパ! 私、これがやりたい! おじちゃんたちと一緒に、運動会!」
キラキラした瞳でお願いされ、断れるはずがない。
こうして、管理事務所の主導により、第1階層から第7階層までを巻き込んだ史上最悪……もとい、史上最大の『地獄第一回・パンドラ杯親睦運動会』が開催されることになった。
第一種目:地獄の100メートル走
「ルシファーおじちゃん、頑張ってー!」
パンドラの可愛い声援が飛ぶ。
スタートラインに並ぶのは、小型化したフェンリル、不敵に笑うルシファー、そしてなぜか参加させられたベルゼブブ。
「パンドラ、見ていたまえ。私の移動は光そのもの。走るという概念すら超越して見せよう」
「ルシファー様、テレポートと飛行は禁止です。あと、光速で走ると階層の壁が摩擦熱で溶けるので、マッハ3までで抑えてください」
私の注意も虚しく、ピストルの音(クトゥルフ様の触手が弾ける音)と共に、彼らは爆発した。
ドォォォォン!!
フェンリルが四肢を駆動させ、地面の岩盤を粉砕しながら突進する。ルシファーは優雅に走っているように見えるが、一歩ごとに空間を圧縮している。
結果、わずか0.001秒でゴールラインが消滅。判定不能。
「……えー、両者、速度違反により失格です」
「な、何だと!? 私が、この私がパンドラの前で失格だと!?」
「わぅん!?(俺、全力出しただけなのに!?)」
第二種目:呪いの玉入れ
続いては、赤組(上皇・サタン)と白組に分かれての玉入れだ。
カゴの高さは地上100メートル。投げるのは「触れると発狂する呪いのオーブ」である。
「じーじ、頑張ってー! いっぱい入れてー!」
パンドラが赤い旗を振る。
その瞬間、上皇の目がガッと見開かれた。
「パンドラが『じーじ』と……。よかろう、日本国の大魔縁の本気、とくと見よ!」
上皇は扇子を振るい、数千個のオーブを念動力で一気に操り、カゴへ向かって弾道ミサイルのような速度で叩き込んだ。
対する白組のクトゥルフ様は、無数の触手をカゴに直接伸ばし、「玉を投げ入れる」のではなく「カゴ自体を玉の中に沈める」という宇宙的解釈で応戦。
「反則です。クトゥルフ様、カゴを深淵に飲み込まないでください。カゴが帰ってこなくなります」
最終種目:地獄の綱引き
点数は同点。すべてはこの最終種目に懸かっていた。
綱に使われるのは、この日のためにアザトース様が寝言で生成した「銀河の因果律を編み込んだ超強度ロープ」。これなら魔王たちが本気を出しても千切れない。
「みんな、頑張ってー! 勝った方には、私が『手作りメダル』をあげちゃうよ!」
パンドラが、折り紙とシールで作った(少し歪な)金メダルを掲げた。
その瞬間、会場の空気が変わった。
ゴゴゴゴゴ…………!!
ルシファーの背後に6枚の巨大な翼が広がり、上皇からは黒い怨念が立ち上り、フェンリルは山のような巨躯に戻り、サタンは魔力を全開放して角を伸ばす。
「メダルは……私のものだ!」
「若造が……! じーじの意地を見せてくれるわ!」
バチィィィィィィィン!!!
両陣営が綱を引いた瞬間、第3階層と第4階層の境界線に巨大な亀裂が入った。
あまりの引っぱり合いに、空間そのものがゴムのように伸び、時間の流れが停滞し始める。
「ちょ、止めてください! ダンジョンの構造が歪んでます! 宇宙の特異点が発生しちゃいます!」
私の制止など、メダルに目が眩んだ魔王たちの耳には届かない。
絶体絶命のその時。
「…………あ、綱、手が滑っちゃった」
パンドラが持っていた応援用のポンポンが、ふわふわと綱の真ん中に落ちた。
すると、どういうわけか、銀河の因果律すらねじ伏せていた綱が、パンドラの「ポンポン」に触れた瞬間、パァン!と小気味よい音を立てて消滅してしまった。
「「「「…………あ」」」」
全力で引いていた魔王たちは、勢い余って全員が後ろにひっくり返り、地響きと共に各階層の床を突き抜けて沈んでいった。
表彰式
「えー、結果は……全員同時転倒により、引き分けです」
私は、泥だらけ(というか次元の塵だらけ)で戻ってきた魔王たちを見渡した。
プライドも美学もボロボロだが、彼らの顔には「やりきった」という奇妙な達成感……というか、単なる疲労困憊の表情があった。
「みんな、お疲れ様! すっごくカッコよかったよ!」
パンドラが一人一人の首に、手作りのメダルをかけていく。
ルシファーはメダルをじっと見つめ、鼻を鳴らした。
「ふん。不本意な結果だが……この装飾品、悪くない。私のコレクションの最上位に加えてやろう」
「じーじ、次はもっと高い玉入れしようね!」
「うむ……。パンドラのためなら、富士の山をも投げ入れて見せようぞ」
結局、パンドラの笑顔が見られたことで、魔王たちは満足したらしい。
壊れた階層の修復費用を計算し、私は深く溜息をついたが、パンドラが私の首にもメダルをかけてくれたので、すべてを許すことにした。
【ログ:地獄運動会、無事(?)終了。】
【獲得ポイント:+200,000P(階層破壊による絶望……ではなく、魔王たちの『やる気』より)】
【パンドラのステータス:『審判』の権能が芽生え始めました】
【管理者コメント:次回のイベントは、せめて物理法則の範囲内に収まる『お絵描き大会』にしようと誓いました】
パンドラの首で揺れるメダル。
その裏側には、彼女の拙い字で『だーいすき』と書かれていた。
それを見た魔王たちが再び号泣し、第4階層が涙で洪水になったのは、その日の晩のことである。
更新通知を受け取りたい方は、ぜひブックマークをお願いします!
「続きが気になる」「面白い」と思っていただけたら、下の☆☆☆☆☆から評価をいただけると、執筆の大きな励みになります!




