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かくして秋雨は降る  作者: 霜月風炉
第四章

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98/111

第98話

 スコーンという音が聞こえてしまいそうな勢いで、地を踏みぬいた感覚が秋雨を襲う。

 途端に全身へ吹き付ける風圧とゴーゴーと鳴る風の音。

 気が付けば、秋雨の身体は空を舞っていた。


「アンネリーゼェェェェ⁉」


 絶叫と共に、秋雨の身体は墜落していく。

 そんな姿を他所にアンネリーゼは黒い雲に身を委ねながら、墜落していく秋雨の隣を並走している。


「ごめんねぇ。いつもの癖で空に出ちゃったよぉ」

「ふざけんな! つーか、何でお前だけ雲に乗ってんだ!」

「悪いねぇ。これ一人乗りなんだぁ」


 どこぞのトンガリ頭のキャラクターを彷彿とさせる台詞を吐くアンネリーゼに、秋雨は青筋を浮かべる。


「ふーん、アリステッド辺りに出たのかなぁ?」

「アリステッドだぁ?」

「東京会談に出席していたお姫様のいる国から別の国を挟んで南に位置する海洋国家だねぇ」


 目的地とは遥かにズレた位置への転移に、秋雨は眉間に皺を寄せてしまう。

 アンネリーゼの持つ鍵によってゾティークへ転移できているだけに文句を言いたくない気持ちもあるのだが、秋雨としては流石にこれは耐え切れない。


「空に放り出して、転移位置も違うってどういう了見だよ!」

「ごめんねぇ。それよりもこのままだと地面に激突しちゃって可哀そうなトマトコースだよぉ」


 誰のせいだ——という言葉を飲み込みつつ、アンネリーゼの言う通りマズいことは秋雨自身認識している。

 近づいてくる港街が残された時間のないことを告げている。

 一度短く息を吐き、秋雨は落下位置を見極める。

 パラシュートがあるわけでもないので、空中で大きな移動はできない。

 ならば、被害最小限に墜落するしかない。


「——ふぅ」


 落下位置へ右手を突き出す。

 スピードは乗り続ける秋雨の身体は人間ミサイルの様相を呈している。

 地表とある程度の距離に達した時、秋雨は大きく息を吸って叫んだ。


「下の人たちぃぃ! 墜落するんで退いてくれぇ!」


 頭上から聞こえた声に、街を行き交う人々が立ち止まり一斉に空を見上げる。

 そして、ギョッとした表情を浮かべるや否や、一目散に走り出す。

 こうして秋雨の落下位置に人影は無くなった。


「——よし」


 その声と共に術を発動する。


 水之業・陽型——水天球。


 落下位置に出現する大きな水の球。

 その中へ向かって、秋雨の身体が突っ込んだ。

 ドプン——という音と共に水しぶきが上がり、破裂した。

 辺り一帯に大量の水が弾け飛び、周囲は水浸しとなる。

 そんな水浸しのど真ん中に、ずぶ濡れの秋雨が大の字になって転がっていた。


「し、死ぬかと思った……」

「流石ぁ、難なく乗り切ったねぇ?」

「アンネリーゼェ……」


 黒い雲と共にふんわりと秋雨の隣に降り立つアンネリーゼへ、秋雨はうらみつらみの籠った声で名を言う。


「無事ゾティークに到着したってことでぇ、良しとしようよぉ」

「…………はぁ」


 青筋を浮かべつつも溜め息を吐き、ゆっくりと立ち上がる。

 周囲には墜落してきた秋雨へ奇異の目を向ける人々が集まっている。


「で、これからどうするんだ?」

「そうだねぇ。とりあえずご飯かなぁ?」

「…………さいですか」


 あくまでもマイペースなアンネリーゼ。

 秋雨は呆れて空を仰ぐ。

 視界に広がる空は異世界であれど、変わらない青が広がっていた。

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