第97話
翌日——。
学校には五行神家関連の兼ね合いで休む旨を伝えた秋雨は、朝から骨董品屋にやって来ていた。
理由はこれからゾティークへ向かうため。
店内には既に玲香とアンネリーゼの姿があった。
「やっと来たねぇ? もう遅いんじゃないのぉ?」
ねっとりと纏わりつくような声で、アンネリーゼが秋雨へとそんな言葉を投げかける。
秋雨は顔を顰めつつ、玲香へと挨拶する。
「おはようございます」
「おはよう。秋雨が決めたのなら、最後まで己の意志を貫きなさい。その間のことは————まあ、任せておきなさい」
激励と妙に引っ掛かる言葉を玲香は秋雨へ告げる。
そんな玲香を、何やら興味深そうにアンネリーゼが見ている。
「ふーん? これって突っ込むのは野暮ってやつなのかなぁ?」
「そうね。ま、大した問題じゃないわよ」
「……へえ? 私から贈る言葉があるとするのならぁ——甘く見ない方が良いってことかなぁ?」
「そう。ご忠告どうも」
何故か牽制し合う二人に、秋雨は首を傾げる。
「さて、秋雨君。そろそろ行こうかぁ?」
懐から銀の鍵を取り出し、アンネリーゼが正面に突き出す。
そして、地球に存在する言語では何かを唱え始める。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
それは狂気に満ちた声。
同時に何処から聞こえる歪な声は、地球はおろか太陽系において知られざるものの囀りや呟きに似たようなものであった。
秋雨は自身の精神が少しづつ擦り減る感覚を覚える。
恐らく、今アンネリーゼが唱えている呪文は何度も聞いて良いものではない。
「————さて、扉が開くよぉ?」
アンネリーゼの目の前に天井まで届きそうな銀の扉が現れていた。
「門?」
「そうだねぇ。私はこれを窮極の門って呼んでるねぇ」
クスクスと笑いながら、秋雨の溢した声にアンネリーゼが答える。
一方、その門を見た玲香が「へえ」と感嘆の言葉を溢している。
「窮極の門——なるほど、確かにその名に恥じないものね」
「だよねぇ。この門と鍵があれば、世界間旅行は勿論、惑星間の移動も容易いねぇ。唯一の欠点——と言うよりは、能力不足だねぇ。欠点は未来に飛べるけど、過去には飛べないってことかなぁ?」
頂点捕食者であるアンネリーゼですら実力不足により、完全な能力を引き出すことが出来ていないという事実に、秋雨は眉を顰める。
それだけ門と銀の鍵が特別であることは理解できるのだが、それ以上に門と銀の鍵が異常であることに戦慄する。
「ま、制御ができないワケじゃないから事故は起きないよぉ? さて、開けようかなぁ」
そう言って、アンネリーゼが突き出していた鍵を捻った。
カチャン——と、解錠されたような音が鳴り響いた。
同時に、ゆっくりと門が開き始め、隙間から強烈な風が吹き出す。
「さて、行こうねぇ?」
門が完全に開かれる前に、アンネリーゼが早速入っていく。
秋雨も置いて行かれないように門へと駆け出す。
「じゃ、玲香さん——行ってきます!」
「ええ、行ってらっしゃい」
その言葉を背中に受け、秋雨は門へと飛び込む。
ぐにゃりと歪む視界と耳を劈くような金切り音によって、強烈な頭痛に襲われ、秋雨は顔を顰めるがその歩みを止めない。
先を行くアンネリーゼの背中を追い続けるのだった。




