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かくして秋雨は降る  作者: 霜月風炉
第三章

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93/116

第93話

 東京会談は波乱と共に始まり、様々な遺恨を残し、世界に深い爪痕を残した。

 頂点捕食者の襲撃によって会談を継続するワケにもいかず、何よりも全世界に発信された『来たる脅威』に対することも含めて、各国の政府は調査と確認を行う運びとなった。

 

 日本国内に立ち込める世間の空気は神木守玲香という存在に対して、批判的な意見が散見されるようになっていた。

 それもそのはず、アレだけ身勝手な発言してしまったのだから、顰蹙を買ってしまうのは当然の帰結だろう。

 とは言え、当の本人である玲香は澄まし顔で何処吹く風であり、「へえ、文句があるなら掛かって来なさい」と挑発する始末である。

 勿論、五行神家も多少なりとも批判は受けているのだが、こちらも特にコメントを出すことなく沈黙を貫いていた。


 マーリン率いる魔女会はイギリスへ帰国後、正式に王室との関係を公表。

 更にイギリスの血に眠る『赤の竜と白の竜』についても併せて公となった。

 しかし、目下の問題は『来る脅威』とされる『収獲者』であり、今はいつ爆発するかわからない爆弾という状況で燻ることになる。


 フランスの十二勇士は相変わらず団長であるカルロスが自由人過ぎることもあり、副団長であるレアが主導となって今後の方針についてフランス政府と協議していくことが決定した。


 銃士協会の二人については帰国後の活動方針は不明。

 アメリカ政府としては協力体制を築きたい様子ではあったが、恐らく難しいだろうという意見が専門家の通説だ。


 今回の会談で最も大きな成果を上げたのは、異世界ゾティークより会談に参加したミルディールだった。

 異世界というアドバンテージを存分に活かした結果ともいえる。

 一番は奏多の働きかけによって、五行神家である神水守家との協定が結ばれたこと――あくまでも奏多と秋雨との間で結ばれた協力体制ではあるが、今回の戦いの中でお互いに信頼を預けるに値する存在と認識した故の結果であった。


 襲撃を仕掛けた頂点捕食者がどうなったのか。

 九十九は表向きには消息不明。

 その結末を知っているのは、その場にいた律たちだけであり、九十九の正体を含め、限られた者たちにのみ知らされた。

 アレクシスは玲香によって、多くの者たちの目の前で討ち取られた。

 この結果を踏まえて、玲香に殺人罪を問う声が上がったが、報復を恐れた政府によって不問とされたことに賛否がわかれることになっていた。

 そして、アンネリーゼだが――――、


「……どうして、私は生きてるのかなぁ?」


 骨董品屋のレジカウンターにある椅子に座りながら、肩ひじを着きながら問う。

 その問いはアンネリーゼを解凍してから、定期的にぼやかれ続けており、そのぼやきを一身に受ける秋雨は辟易していた。


「……それは玲香さんに聞いてくれ。本当なら俺はアンタを許す気は微塵もないんだ」

「えぇ、だってあの人何も教えてくれないんだよぉ? あと、あの人の権能のせいで行動に制限が掛けられて鬱陶しんだよねぇ……何とかならないかなぁ?」

「知らねぇよ。俺としてもアンタを生かし続けることを決めたら玲香さんの考えがまったくわからないけど……まあ、『面白そうじゃない』くらいの行き当たりばったりなことだと思うけどな」

「ふーん? まあ、私は敗者だから、勝者に従うのがルールだよねぇ」


 クスクス笑うアンネリーゼに、秋雨は何とも言えない表情を浮かべるしかない。


「玲香さんたちが日本政府と何らかの話を詰めているみたいだけど、碌なことにならないんだろうな」

「あー、収獲者の対策だっけ? 普通の人間じゃ、どうしようもないからねぇ」

「アンネリーゼから見て、俺たちで何とかなるような存在なのか?」


 秋雨の問いに、アンネリーゼは「そうだねぇ」と声を溢し、少しだけ思案する。


「神木守玲香がこの地球の被害を何も考えなければ、何とかなるんじゃないかなぁ? 秋雨君たちは恐らく全滅だねぇ。あー、だけど桜目律って人は例外かもねぇ」

「……なるほど」

「まあ、その時が来たときは楽しませてもらうことにするねぇ?」

「…………はぁ」


 秋雨は溜息を吐きながら、今の状況に頭を痛める。

 アンネリーゼを許すつもりは微塵もないのだが、玲香が決めた以上はどうしようもない。

 恨みつらみはあれど、個人的な感情は斬り捨て、今の状況だ。

 しかし、そんな被害者と加害者を一緒の空間に置く玲香には恐らく人の心はないはずだ。


「はぁ……」

「溜息ばかりついてると、幸せが逃げるよぉ?」

「――黙ってろ。誰のせいだと思ってやがる」


 青筋を浮かべながらそう言った後、秋雨は再び深い溜息を吐くのだった。

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