第92話
「さて、最後に言い残すことはあるかしら?」
両膝を着いたままに身動ぎすらできない状態のアレクシスを見下しながら、玲香は問う。
そこに慈悲の欠片は微塵もない。
ただ、いつも通りの声音で問い掛けている。
玲香にとって、この状況もただの日常の一コマにしか思っていないからだった。
「……神木守玲香。お前は何のために、頂点捕食者になったのだ」
項垂れたままアレクシスは問うた。
神木守玲香――それは自己顕示欲に忠実な獣というに相応しい。
あまりにも身勝手にして、強者を追い求める姿勢は、良く言えば純粋だが悪く言えば悪癖だ。
「別に高尚な理由なんてないわ。そんなことアナタは知っているでしょうに。そもそも、なりたくてなったものでもないわよ」
ケラケラと笑いながら玲香は答える。
「まあ、強いて言うなら……完全無欠の最強ってヤツになりたかったから?」
「…………化物め」
「あら、それはどうも。そもそも、アナタは自身を人間とでも思っていたのかしら?」
心底意外そうな表情を浮かべる玲香。
「まさか頂点捕食者になりながら、自身の人間だとでも思っていたの? なら、それはちゃんちゃらおかしいって話ね。ま、冥途の土産として聞かせてあげるけど、私を含めて頂点捕食者は全員が化物よ。人間だなんて思っている方が烏滸がましい」
それは底冷えするような声だった。
玲香は一度たりとも自身を人間だとは思っておらず、人の姿をした化物と考えていた。
勿論、それは自虐でも、なんでもない。
それどころか自身の誇りでもあったのだ。
「アナタの言う通り、私は化物よ。だけど、それの何が悪いのかしら?」
「ああ、やはり狂っているな――神木守玲香」
「それは結構。高尚な思想ですら太刀打ちできなかった恨み節が過ぎるわね」
クスクスと笑いつつ、玲香は右手の親指と中指を合わせる。
「さて、アナタの野望は叶ったかしら?」
「…………火種は撒かれた」
「そう? ま、その火種が立ち上ることを楽しみにしているわ」
パチン――そんな音が響くと同時に、アレクシスの身体が一瞬にして蒸発した。
その原因は0.01秒発動された玲香の権能である天照だ。
「頂点捕食者にしては歯ごたえなかったわね」
大きく背伸びをしながら、玲香は残念そうに言う。
そんな様子を見ている周囲の者たちは、最早何も言えない状態だった。
実力の差があることもそうではあるが、何よりもその思想が人々の有する常識の範囲外だったからだ。
「一先ずは一件落着だけど……これからどうすることが正しいのかしら。遥、紅蓮、何とかしてくれる?」
突然、そんなことを振られる二人は顔を顰めながら頷いた。




