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かくして秋雨は降る  作者: 霜月風炉
第三章

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第91話

「さて、俺の価値ってことで良いんだよな?」


 極彩色の魔力に飲み込まれた九十九の身体はボロボロであったが、意識は保っていた。

 しかし、すべての力を出し尽くしてしまったが故に、これ以上の戦闘は困難だった。

 そんな九十九に対して、律は問う。


「……ああ、私の負けだよ。これ以上の戦闘続行は不可能だ。運命の魔人マラコイデス――やはり、お前は変わらないな」

「詳しいことはわからない。だけど、これがアンタの望んだことなのか?」

「そうだ。私の役目は果たした。いや――――最後にひとつやり残したことがあるな」


 そう言うと九十九がゆっくりと立ち上がる。

 その姿に近くにいたアルトリウスが剣を構えるが、律は腕を伸ばし制止する。


「大丈夫だ、アルトリウス」


 怪訝な表情を浮かべるアルトリウスだったが、律の表情を見て素直に引き下がる。


「どうやら全てを見たようだな?」

「まあ……見覚えのない記憶があるっていうのは気持ち悪いが、概ね理解できた」


 その言葉を聞き、九十九はただ一言「そうか」と呟く。

 そして、少しの沈黙の後に九十九は口を開く。


「魔女が生まれる世界を否定し、新たな世界を創造した意義はあったと思うか?」

「正直、わからない。だけど、ひとつの悲劇を回避できたのなら意義はあったんじゃないのか。何よりも姉さんが人として生きていることが証拠だろう。それはアンタも思っているはずだ」

「……そうだな。桜目雪が魔女にならない世界が此処にある。それだけで桜目律の選択は間違いではなかったのだろう」


 律と九十九の間で交わされる言葉。

 それに首を傾げながら聞くアルトリウスの元に、マーリンとエリスティマ、雪がやって来る。


「さて、アルの手で仕留められなかったことは残念だが、勝ちは勝ちだ。この世界ももうすぐ壊れてしまうと見て良いのかな?」

「そうだな、キングメイカー」


 マーリンの問いに、九十九は頷く。

 そんな中、雪が九十九へ問い掛ける。


「アナタは……律なの?」

「――――さて、それは君の想像にお任せしよう。今の私の名は九十九だ。それ以上でも、それ以下でもない。ただ……君が人としての生を謳歌していることには嬉しく思う」


 雪へ優しい声音で告げる九十九だったが、直ぐに表情を引き締め、律へと向き直る。


「桜目律。お前に私の全てを継承させる」

「……あの時と同じようにか?」

「そうだ。これから訪れる脅威に対抗する手段となるはずだ」

「そうだな。だけど、いずれ彼方へ至る道(アルストロメリア)を使う気はないからな」


 律が告げた長文詠唱魔法の名を聞き、九十九は目を見開く。


いずれ彼方へ至る道(アルストロメリア)か。確かに、使わないことに越したことはない。たが――――」

「その時は、まあ……考えるよ」

「ふん……では、はじめよう」


 右掌を律へと向けて差し出し、九十九は詠唱をはじめる。


「執念と願いは永久に巡り続け、その目的を果たすまで止まることは許されない。全ての決意と意志は、いずれひとつの結末を紡ぐ呼び水となることを願う。積み上げられた因果の果てに、最善の結末を――|途絶えぬ記憶を継承せよ《スターチス》」


 律の身体を包むように、金色の粒子が集う。

 その粒子は溶け込むように律の身体の中へと消えていった。


「さて、これで私の役目は終わりだ」


 そう告げた九十九の身体は半透明となっていた。


「……手間を掛けたな」

「まったくだ。だが、お前はそれで良い。最後に助言だ」


 消えていく中で、九十九は口を開く。


「これから訪れるのは激動の時代だ。異能と異世界、そして訪れる脅威が顕わとなった時、人間は愚かな行いを推し進めるだろう。人間は自身と異なるものを排斥する生き物。だが、今のお前なら大丈夫のはずだ。宇宙より訪れる収獲者を前に、お前がどのような選択をするのか――楽しみにしている」


 かくして九十九の姿は消えてなくなった。

 同時に周囲に広がっていた世界は消失し、元の風景に戻る。

 先ほどまで九十九が立っていた場所を見つめながら、律は一言呟く。


「さようなら、桜目律。君の旅はようやく終わったよ」

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