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かくして秋雨は降る  作者: 霜月風炉
第三章

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90/111

第90話

 それは現実が塗り替わり、瞬くの間に移り変わる歴史が流れていくような事象であった。

 アレクシスの視界と意識は切れ掛かった電球のように明滅し、周囲の風景が次々流れていく。

 巻き込まれたマスコミの者たちは口から泡を吹いて次々と崩れ落ち、耐えている者も四つん這いになって何とか耐えているだけ。

 紅蓮と遥、ガーネットに、ルーク、そしてカルロス――そんな突き抜けた強者ですら、この事象の前には血の気が引いてしまうほどだ。

 平然としているのは玲香ただ一人。


「古、いまだ天地は別れず、陰陽すら別れていなかった」


 紡ぐ台詞は日本書記の冒頭を、現代訳したもの。

 淡々と紡がれていく言葉が周囲に響き渡る中、アレクシスは自身の顔を片手で覆いながら、キッと玲香を睨みつける。


「これは……結界か? いや、そんな甘いものではないな」


 今、広げられている事象の攻撃対象はアレクシスであり、周囲はその余波を受けているに過ぎない。

 そんな余波だけで影響を与えている中で、それ以上の影響を受けているアレクシスが意識を保っているのは、頂点捕食者という存在だったからに他ならない。


「世界の誕生――――そうか、これは……世界創生からの記憶を私に叩き込んでいるのか⁉」

「ええ、元は人工知能のアナタなら問題はないみたいね。だけど、本質はそれだけじゃないのだけど」


 玲香のそんな言葉と共に、アレクシスの体内から木の枝が貫いてくる。


「――な、に?」

「この記憶を叩き込まれた対象の内部にひとつの世界を創り出す。世界ができたのなら、そこには大地がある。そうなれば私の木之業でアナタの内部から発動ができるってワケ」

「世界の想像だと? あり得ない……神木守玲香。お前は世界を創造したとでも言うのか⁉」

「ご名答。この程度、造作でもないわ」


 脂汗を滲ませるアレクシスは目を見開き、叫ぶように問う。


「お前は、神にでもなるつもりか⁉」

「別に、神の席になんて興味はないわ。ただ、できるのならやってみたい――そう思ってしまうのは人間としての欲でしょう?」


 アレクシスは片手で顔を覆いながら、内の中から溢れ出そうとしてくる何かに耐え切れなくなり、遂に膝を着いてしまう。

 脳のリソースが奪われ、人工知能としての処理すら追い付かず、少しづつ身体の熱が上昇する。


「お前は、その力を持って……何を成す気だ⁉」

「何を成す? 私は強者との戦いを望む。それは、いつだってシンプルな答えでしょう?」

「狂っている。なぜ、お前が頂点捕食者に選ばれたのだ――神木守玲香!」

「なぜ? 愚問ね。そんなこと単純明快のたったひとつの答えよ」


 それは清々しいまでの明るい表情で、玲香は宣言する。


「だって、私は最強ですから」


 馬鹿げている――と、アレクシスは叫びたかった。

 こんなことが許されてよいものか。

 我欲に塗れた女に頂点捕食者としての、それ以上の力を有するとは許されるはずがない。

 この地球の叫びを聞き、アレクシスはやって来た。

 しかし、その地球が選んだ頂点捕食者が何よりも化物ではないか。


「神木守玲香!」

「安心して滅びなさい。これから訪れる脅威については、私が――いや、秋雨たちがなんとかするから」


 全身の血管が断絶し、アレクシスの眼、鼻、口から出血する。

 少しづつ内部から崩れていく中で、アレクシスは玲香を睨む。


「…………愚かな」

「愚かで結構。この世界の人類はアナタが思っているほど弱くないってことよ」

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