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かくして秋雨は降る  作者: 霜月風炉
第三章

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第89話

 大胆不敵にして不遜な様子で、アレクシスの前に立つ玲香。

 その姿は良くも悪くも、いつも通りであり、そこに一片の違和感は介在していない。

 最強故に遠慮などすることはなく、最強故に敵対者を見下す。

 しかし、それは神木守玲香という絶対的存在だからこそ成り立つ図式だ。


「さて、相伝術式は――転換だけど使用したから、別の趣向を講じたいわね。ただ、アナタは面倒な権能を有している。だけど、手がないワケじゃない」


 不敵に笑う玲香は顎に手を当て、「ふむ」と一言ごちる。


「ねえ、アナタは私の権能は把握できているかしら?」


 唐突に玲香はアレクシスへそんなことを問う。

 突拍子のない問いに、アレクシスは訝し気な表情を浮かべる。


「この国の神の力を借り受ける権能。その程度は既に認識している。そこに何の意味がある?」

「意味はないわね。だけど、秋雨と戦っている小娘と九十九――は少し異なるわね。まあ、アナタと小競り合いをして確信したことがある」


 その玲香の声音は何処か失望したような、呆れたような、少なくとも決して良いものではない。


「頂点捕食者は『人類を護る為に人類と敵対する存在』であり、『人類を生命体として次のフェーズへと押し上げる存在』とも言ったかしら? だけど、私はそう思わない」


 玲香は改めて頂点捕食者の在り方を否定する。


「私としては勝手に与えられた役割(ロール)に背いただけ。だって、決められたことを演じるってつまらないでしょ? だけど、与えられた権能については感謝しているわ。これは本心ね。だからこそ、思ったの」


 手を組んで大きく背伸びをしながら、玲香は言い放つ。


「最強を極めた時、頂点捕食者は何と呼ぶのが正しいのかってね?」

「――何を、言っている?」

「現状、私は地球の頂点捕食者の役割(ロール)を有している。それは覆しようのない事実。だけど、そろそろ地球の意志にごちゃごちゃ文句を言われるのも鬱陶しいのよ」


 地球により与えられた頂点捕食者の権能。

 本来の役割を放棄した故に、文句を言える立場ではないはずの玲香であったが、そんなことお構いなしに文句を吐き捨てるように言う。


「収獲者に真正面からぶちのめす。これに私は心が躍る。それは強者との戦いがあるから。だけど、アナタは少しの強者だけではどうにもならないみたいなことを言っていたわね? なら、絶対の強者がいたのならどうかしら?」


 ドン――そんな音が聞こえるような重圧が出鱈目に降り掛かる。

 離れたところからカメラを向けていたマスコミの者たちが一斉に膝を着く。

 勿論、それは紅蓮や遥たち異能力者組も例外ではない。


「なん、だ?」


 アレクシスも気を抜けば膝を着いてしまいそうな状態に陥る。


「人類を信じるのは大いに結構。アナタたちのやろうとしていることは正しいこと。私は拒否するけど、それを否定する気はないわ」


 一歩、玲香が足を踏み出すと、異様な気配が漏れ出す。


「私は、私が正しいと思ったことを成す。ただ、それだけの話。至ってシンプルでしょ?」


 更に一歩、玲香が足を踏み出せば、天地がひっくり返ってしまいそうな感覚が訪れる。


「頂点捕食者の権能には、五行神家が有する相伝術式のような切り札が存在すると言ったらどうする?」

「……何を、言っている? 権能にそれ以上もそれ以下も存在しな――――」


 アレクシスの言葉を遮るように、玲香が溜め息を吐いた。


「はぁ……興覚めだよ」


 世界が明滅する。

 近くにいる誰もが立っているだけでも吐しゃ物を吐き出してしまいそうになる。


「頂点捕食者とは言うけど、アンタたちは神様にでもなったつもりかしら?」


 その言葉を吐く玲香の目は今までにない以上に鋭かった。


「試練を与える側としての威厳? それとも誇り? 実に滑稽極まりないわ。しょうもないことこの上ない。訪れる脅威? 大いに結構。私にとっては台風程度の事象でしかないから」


 この時、アレクシスは理解した。

 目の前に立つ女は既に人類という枠組みから逸脱した存在であることを――――それこそ神の片鱗に指を引っ掛けている。


「では、お見せしましょう。地球の頂点捕食者である私は辿り着いたものを」


 もう一歩、玲香が足を踏み出すと、パキン――ガラスの割れるような音が鳴った。


「混沌の世に神は訪れ、世界は始まる。さあ、刮目せよ――天地開闢」

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