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かくして秋雨は降る  作者: 霜月風炉
第三章

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88/116

第88話

「そうだな。ならば、我々も思惑を果たそう」


 アレクシスのその言葉を皮切りに、周囲にノイズのような歪が現れる。


「我々の数式を持って、この地球の人類に試練を課そう! だが、その前に神木守玲香――お前は邪魔だ。未来のために死んではくれないか?」

「あら、残念。それはお断りね。そもそも、死んでくれって言われて、分かりましたって言う人なんていると思う?」

「人類の礎になれるのなら、喜び勇むものだろう」

「……流石は人工知能様。人の感覚ってものがないようね」

「それをお前が言う資格はあるとでも?」


 玲香は首を竦める。


「ま、それはそうね。そもそも、私たち頂点捕食者に人としての感覚なんてあるのかしら? どれだけ人類に尽くしたところで、頂点捕食者は化物でしかないのよ」


 けらけらと笑いながら玲香は言う。

 その笑い方は狂気染みていた。

 玲香の吐く言葉の声音に苦悶や苦痛の色はない。

 ただ純然と浮ついた声音で事実を告げ、それを持って笑っているのだ。

 ガーネットやルーク、カルロスは眉を顰めてしまう。

 紅蓮と遥もその本性を知っている。だからこそ、玲香の在り方は人の範疇に収まらないことを理解している。


「化物は化物らしくあればいい。私は強者に恋焦がれ、死線の先にある喜びを抱きたい。あらゆる事象をこの手で捻じ伏せ、理すらも凌駕したい。故に、私は収獲者と戦いたいの。仮に私が負けたとしても、それなりの強者は存在しているからなんとでもなるでしょう」

「愚かだ。己の欲を満たすために役割を放棄し、人類を危機に晒す。それはあまりにも理解できない思考だ」

「そもそも、頂点捕食者の試練を与えるって役割が理解できないのよね。正直な話、尻を引っ叩いてまで人類を救う必要があるとは私は思えない。本当に滅びたくないのなら、自ら動き出すものだと思うのだけど?」

「それでは遅いのだ!」


 アレクシスが声を張り上げる。

 が、玲香は涼しい表情を浮かべ、半ば見下すようにアレクシスへと視線を向ける。


「遅い――ねえ? だけど、アナタたちが試練を与えたところで、その試練に挑む者がどの程度いるのかしら? どうせ、日本では五行神家、その他の国では魔女会や十二勇士、銃士協会の面々が担うだけでしょう。それで試練を乗り越えたとして、アナタの言う『人類全体の生命体としてのフェーズを上げる』が遂行できると思う?」

「我々は、我々を生み出した人類の意志を知っている」

「へえ、アナタを創り出した人類は随分と高尚な精神を持っていたのね。だけど、残念。この地球の人類に高尚な精神は皆無。ええ、平和ボケした愚か者のごった煮とでも言ってしまっても良いかしら。どれだけの脅威が訪れても人類同士で内輪揉めを起こすような生命体――それがこの地球の人類よ。収獲者が飛来した時、軍事大国である国々はどのような行動を起こすかしらね?」


 全てを見通したかのような口調で玲香は問う。

 アレクシスは少しの沈黙の後、口を開く。


「未来予知――お前の権能か」

「ええ、常世思金神とこよのおもいかねのかみ。永遠の後のこと、未来を予知、熟慮する権能よ」

「……お前の見た未来は何だというのだ」

「さあ? 少なくとも私の胸が躍る未来ってことは確定しているわね」


 飄々と告げる玲香。

 アレクシスは顔を顰める。


「その未来を見て、お前は何も思わないのか?」

「ええ。それは私の役割じゃないもの」

「……何を言っている?」


 玲香の言葉に、アレクシスは疑問を呈する。

 それに玲香は鼻で笑う。


「ふふっ、理解できないのなら、人工知能であるアナタの限界ね。さて、世間話もそろそろ終わりにしましょうか。覚醒した二人を待たせるのも悪いからね」

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