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かくして秋雨は降る  作者: 霜月風炉
第三章

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86/116

第86話

 少しづつ九十九という男がどんな人物像であるのかを、律は知っていく。

 自身の記憶ではない別の桜目律の記憶の中で、一進一退の攻防を繰り広げた記憶――それが鮮明に脳裏に思い浮かぶ。

 その際の問答すらも明確に頭の中で再生される。

 九十九は、数多くの失敗を繰り返した男であった。

 失敗する度に、その意志を別の桜目律に全てを託していくことを幾度も幾度も繰り返し続けた傑物。

 その精神性が摩耗せずに、残り続けたのは、その鋼にも似た意志があったからだろう。

 九十九の言う前の世界において、九十九は律に敗れた。

 これまで繰り返してきた九十九でさえ手にしなかった奇跡を用いて、その全てを覆した故の辛勝ではあった。

 確かに、九十九の知る桜目律はその意志と決意が強固であった。

 期待してしまうのも頷ける。


「アンタは……俺を救世主にさせたいのか?」

「違うな。紡がれた今の世界を滅ぼしたくないだけだ」

「なら、一緒に戦えるんじゃないのか?」

「――それはできない。この世界を望み、創造したのはお前だからだ。彼女たちの願いのためにも、お前は強者であらねばならない。私は前の世界の残滓にして残り火。既にお前に敗北し、死した存在が強運によって残存しているに過ぎない」


 鎌の斬撃が小手で防がれ、甲高い金切り音が響く。


「何よりも――この世界に桜目律と同一存在は必要ない。故にお前は私を殺さねばならない」


 執着とは違う。

 ただ、九十九には明確な意志がある。


「……はっは」


 そんな九十九を見て、律は思わず笑い声を溢す。


「……何がおかしい?」

「いや、おかしいわけじゃない。ただ、アンタを見ていると変わらないなって思っただけだ。同一人物だか何だかは知らないが、俺とアンタは似ている」


 決めたことに対して愚直であること。

 やるべきことは何があっても遂行しようとする頑固さ。

 それが誰にも理解されないとしても独りでも成し遂げようとする意志。

 きっと、俺がアンタなら同じことをするのだろう――と、律は直感で思う。


「世界が滅びる。運命は収束する。それは俺が成長することで覆すことができる事象なのか?」


 律は問う。

 因果律は収束する故に、世界の滅びは変えられない。

 それが九十九の言う見解だったはずだ。

 しかし、九十九はその運命に抗うために、律の成長を促している。

 それは矛盾だ。

 覆らないのなら、意味はないはずだ。


「運命は覆らない――普通に考えてしまえば、そうだろう。だが、私たち桜目律はその運命を覆すために繰り返してきた」

「…………なるほど」

「そして、前の世界のお前は世界の運命を覆した。ならば、賭ける価値は十分にあるだろう」

「博打が過ぎるな」


 律は首を竦める。

 記憶の中で、確かに律はその運命どころか、世界の法則すら捻じ曲げた。

 魔法少女と魔女が存在しない世界――今の世界が創造され、起こるはずだった悲劇の根本原因が消失している。

 だからこそ、律は思う。

 前の世界の俺はとんでもない化物だ――と。


「だけど、アンタは俺にそれができると思っているんだろ?」

「さて、それはどうだろうか。今のままでは足りない」

「わかっている。足りないことは、記憶を知る限り明らかだ。だけど――よくやく理解した」


 律は少しだけ息を吸い、言葉を紡ぐ。


「――我は運命の魔人マラコイデス」


 瞬間、九十九は目を見開いた。


「それは……」

「あらゆる悲劇と嘆きを否定し、惨劇と絶望の未来を覆す者なり。数多くの願いと希望を背負い、数多の祝福と呪いを携え、新たな未来を切り開こう!」


 律の背に円環が展開される。

 そして、律はその魔法を告げる。


「魔法名――運命を切り開く魔法プリムラ・マラコイデス

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