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かくして秋雨は降る  作者: 霜月風炉
第三章

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85/111

第85話

 水は凍てつき、氷となる。

 相伝術式・転換――本来あった相伝術式を別の異なる方向性へと駒を進めた新たな術式。

 神水守家としてあった水之業と秋雨が生み出した氷之業を混ぜ合わせ、限定解除と出力の増幅を持って発現した切り札。

 そして、この一撃が全てを決するものとなる。

 大気中の水分が凍り、キラキラと輝きを放ちながら結晶が舞う。

 吐く息は白く、骨の髄まで冷気が染み渡り、ズキズキと痛み出す。


「――世界は凍る」


 秋雨が紡ぐ。

 脳天から指先、足先に至るまで、すべての力を相伝術式へと注ぎ込む。

 限定解除のリミットまで――残り二十秒。

 秋雨は地を蹴り、駆ける。

 奏多たちの横を駆け抜け、アンネリーゼへと突っ込んでいく。


「いいねぇ!」

「――大気中の水分は氷結し、その身の自由を奪うだろう」


 手を動かそうとしたアンネリーゼが首を傾げる。


「動かない? いやぁ、これはぁ……」


 極寒によるアンネリーゼの皮膚は裂け、瞬く間に血が流れ出す。

 凍結による行動制限が本質ではなく、その寒さの極限による肉体の崩壊こそが本質だ。

 八寒地獄(はっかんじごく)摩訶鉢特摩(まかはどま)――別名、大紅蓮地獄(だいぐれんじごく)


「ぐぅ……やるねぇ、秋雨君」

「――肉と骨を裂き、紅蓮華を咲かせろ」


 アンネリーゼの身体中のいたるところから血が流れていく。


「キヒ……キヒヒヒャヒャヒ! 良いよぉ、もっと私を愛して(憎んで)よぉ!」

「……いや、それはない」


 アンネリーゼの目前まで迫った秋雨は立ち止まり、告げる。


「……俺はアンタを許さない。だけど、それは愛じゃない」

「へえ?」

「俺は、俺の役目を果たす」


 アンネリーゼの身体から流れ出る血が凍りついていく。


「また、凍らせる気かなぁ?」

「……そうだな。俺じゃアンタは殺せない。人間である俺と頂点捕食者であるアンタとじゃ、生命体としての強度に隔絶された差があるんだろう」

「そうだねぇ。今の君じゃ、無理だねぇ?」

「ああ……だから、今は殺さない」

「キヒ! そっかぁ……この術は、前回のものよりも強力みたいだから、溶かすのも一苦労かもしれないねぇ」

「当然だ。これは俺だけでつないだ術じゃないからな」


 秋雨はアンネリーゼを見つめながら言う。

 その言葉に、アンネリーゼは目を丸くしたと同時にクスクスと笑う。


「そっかぁ……まぁ、良いや。私の目的は果たしたからねぇ」


 表面上だけでなく、その肉体に流れる血液、存在する水分が凍り付いていく中で、アンネリーゼは確かに言った。


「目的を果たした?」

「そうだねぇ。おめでとう秋雨君――君はひとつ上のフェーズに進んだよぉ。それと――」


 首が動かない故に、アンネリーゼは視線だけを奏多へと向ける。


「――想定外だったけど、勇者君もひとつ上のフェーズに進んだみたいだねぇ」


 ほう、と一息を吐くアンネリーゼ。

 その吐息は既に白くない。


「この地球(ほし)は君たちのことが大好きみたいだねぇ。まあ、良いや。私の惑星と同じ末路を辿らないことを祈っているよぉ」


 その言葉を残し、アンネリーゼは完全に凍り付いた。

 同時に限定解除のリミットが訪れ、秋雨は膝を着く。


「はぁ、もう動けねぇよ」


 そう呟くと同時に、秋雨は玲香とアレクシスの戦闘へと視線を向けるのだった。

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