第82話
頭の中に広がる様々な力。
そのすべての使い方が手に取るようにわかってしまう。
複数の短文詠唱魔法と長文詠唱魔法――それぞれの特徴と能力も使わずとも理解できる。
それはすべて九十九が知る律自身の記憶によるものだ。
意識が暗闇に落ちていく時、頭の中で響いた声。
アレが誰だったのかも、今なら理解できる。
それは数多くの戦場を共にした魔法少女。そして、最後は殺し合いを繰り広げた人の身でありながら魔女となった女傑。
彼女たちに託されてしまった以上、律は九十九を倒さなければならない。
「これは太陽を願っても尚、叶うことのなかった悲しみの象徴。さあ、悲哀と嘆きを響かせ、此処にその意思があることを示そう。眠りにつく者よ。太陽に焦がれた者よ。いつか訪れる冬の終わりを棺桶の中より願うと良い。これより吹き荒ぶはあらゆる事象を停止する絶対零度の息吹なり」
長文詠唱魔法。
それはいつか九十九が使用した魔法――事象停止の零点だ。
辺りに全てを凍てつかせようとする冷気が満ちていく。
「我、魂の赫灼をもって乞い願おう。焼き尽くすは堕ちた清浄。怒りは汝の情景。故に我が焔で汝の恩讐の尽くを灰にしよう。恨むといい。憎むといい。嘆くといい。その全てを我が抱いて、我が受け止めよう。生命巡廻。我が焔にて、その終わりを見届け、汝の新たな始まりを切に願わん」
律の魔法に対抗するように、九十九も長文詠唱魔法を紡ぐ。
「――生命巡廻の聖焔!」
満たされていく冷気を相反するように、すべてを燃やし尽くそうとする熱が広がっていく。
「マーリン! これはどういうことなんだい?」
「わからない。ただ、律が何らかの力に目覚めた事だけは確かだろうね!」
アルトリウスの問いに、マーリンは答える。
マーリンも今の状況に困惑していた。
律の身から魔力量がどんどん増していくからだ。
それはまるで頂点捕食者のようだった。
「神金守の当主殿、そして姉さんよ、律は何者なんだい?」
マーリンの問いに、鈴音と雪も困惑の表情を浮かべていた。
しかし、少しだけ戸惑う様子を見せた後、雪が口を開く。
「……少しだけ、私の頭の中に知らない記憶が奔りました。私は魔女となって世界を亡ぼす一端を担い、律に不死の祝福を授けたみたいです」
「どういうこと?」
「鈴音さん、正直よくわかりません。取り留めがないです。ただ、律を導く者たちがいました。きっとあの力も彼女たちからのものだと思います」
雪の言葉に皆が首を傾げる。
そんなことを喋っている雪すら理解できていないのだ。
そんな中でも律と九十九の戦いは激しさを増していく。
「奔れ!」
「巻き上げろ!」
律が放つ稲妻を、九十九は竜巻を放って無力化する。
大鎌を振り被りながら踏み込んでくる九十九。
その攻撃を両手の小手を用いて受け流す律。
はじめこそ押されていた律であったが、少しづつその実力が拮抗していく。
「音を越え、私は光すらも置き去りにしよう。置いて行かれないように、後から続く者へその意志を指し示すために。私は、私の在り方を此処に見せつけよう。今を越え、未来より敵を穿つ。奔り抜けろ、蒼白の雷霆」
九十九による長文詠唱魔法――迸るは蒼白の雷霆。
「決意を持って意志を貫こう。私の風は此処から始まる。終わりは吹き抜ける道の先にこそあり、その希望の夢を見よう。さあ、始まりを告げる祝福の風よ。その一陣を持って、吹き渡れ!」
風の長文詠唱魔法。
律の発動した魔法の名は――始まりを告げる一陣。
ぶつかり合う強烈な魔力。
それは傍から見れば天変地異と錯覚してしまうような地獄。
「まだだ! まだ、足りない! それでは再び世界は滅びを迎えるぞ、桜目律!」




