第81話
立ち上がり啖呵を切った律を見て、九十九の口角が僅かに上がる。
そうだ、それでこそ桜目律だ――あの世界で自身を打倒した時も、このような啖呵を切って立ち上がったことを九十九は思い出す。
だからこそ、九十九は期待してしまう。
残り火として紛れ込んだ自身を殺せることを。
不死性を持つ九十九を殺せるのは、常在魔法である『汝の死を願おう』を持つ者だけ。
その常在魔法を有するのは九十九。そして、同一存在である律。
「それでいい。お前はそうでなければならない」
九十九は告げる。
今、律の身体から溢れ出る魔力こそ、嘗ての桜目律を彷彿とさせる。
「……アンタが俺に何を見ていたのかは知らない。ただ、今――俺の身にある力は、アンタを倒すことができるものなんだろ?」
「そうだ。常在魔法・汝の死を願おう――私やお前が未来に飛ばされ、最初に遭遇した魔女から偶然簒奪した不死殺しの権能だ。お前が私を殺せるように、私もお前を殺せる。まあ、私のものは出力が随分と劣ってはいるがね」
自重するように九十九は言う。
理由は不明だが、九十九の常在魔法の出力は落ちていた。
それこそ、今の律に劣るほどだ。
しかし、それが律と九十九との実力差がひっくり返るものではない。
だた、それでも九十九は期待する。
「人の定義を定め、数多の失敗を肯定し、凶星を落とし、幾多の少女との絆を紡いだ先に訪れた奇跡こそ、桜目律が生み出したこの世界だ。しかし、運命は収束する。そうだ――残り火でしかない私は、眠れる救世主を目覚めさせ、ひとつ上のフェーズへと押し上げるために頂点捕食者としての役を与えられたのだ」
九十九は赤黒い鎌を構える。
「今思えば、これもお前の差し金だったのだろうな。まったく自分自身であればどう使っても良いとでも思ったか?」
呆れるように、自身の立ち位置を思い、吐き捨てるように言う。
「桜目律。その身に目覚めた権能を持って、私を殺し来るといい。私もこの身のすべてを持って、お前を殺しに掛かるとしよう」
律の両手に赤黒い小手が装着される。
それに九十九は眉を顰める。
「……刀ではないのか?」
「俺は刀なんて扱えないからな」
律は答える。
今、律の脳裏には身に覚えのない記憶が駆け巡っている。
一度も刀を握ったことのない律にとって、記憶の中で刀を手に戦場を賭けている自分自身に違和感しかない。
多少の戦いを経験しているからこそ、慣れない武器を手にすることは愚かであることを理解していた。
だからこそ、律は自身の戦闘スタイルに特化した武器を顕現させた。
「凶星の施しを与えよう。アンタのその鎌も、この魔法で生み出したものなんだろ?」
「どうやら使い方については問題ないようだな」
「……不思議と理解はできるんだよ。存在しないはずの記憶――って言うのは気持ち悪いけどな!」
律が地を蹴った。
たった一歩の踏み込み。しかし、その一歩は一気に九十九との距離を縮める。
「縮地か⁉」
「記憶の中の俺がよく使っていたみたいだからな、ありがたく使わせて貰っただけだよ!」
律が拳を叩き込む。
インパクトと同時に短文詠唱魔法を発動する。
「爆ぜろ!」
打ち込んだ拳に爆発が重なった。
衝撃により九十九の身体は宙を舞う。
だが、一点に魔力を集中させることにより、その攻撃を九十九は最小限のダメージで抑えていた。
「いいぞ、桜目律! さあ、私を殺してみるといい!」




