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かくして秋雨は降る  作者: 霜月風炉
第三章

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第81話

 立ち上がり啖呵を切った律を見て、九十九の口角が僅かに上がる。

 そうだ、それでこそ桜目律だ――あの世界で自身を打倒した時も、このような啖呵を切って立ち上がったことを九十九は思い出す。

 だからこそ、九十九は期待してしまう。

 残り火として紛れ込んだ自身を殺せることを。

 不死性を持つ九十九を殺せるのは、常在魔法である『汝の死を願おう(スノードロップ)』を持つ者だけ。

 その常在魔法を有するのは九十九。そして、同一存在である律。


「それでいい。お前はそうでなければならない」


 九十九は告げる。

 今、律の身体から溢れ出る魔力こそ、嘗ての桜目律を彷彿とさせる。


「……アンタが俺に何を見ていたのかは知らない。ただ、今――俺の身にある力は、アンタを倒すことができるものなんだろ?」

「そうだ。常在魔法・汝の死を願おう(スノードロップ)――私やお前が未来に飛ばされ、最初に遭遇した魔女から偶然簒奪した不死殺しの権能だ。お前が私を殺せるように、私もお前を殺せる。まあ、私のものは出力が随分と劣ってはいるがね」


 自重するように九十九は言う。

 理由は不明だが、九十九の常在魔法の出力は落ちていた。

 それこそ、今の律に劣るほどだ。

 しかし、それが律と九十九との実力差がひっくり返るものではない。

 だた、それでも九十九は期待する。


「人の定義を定め、数多の失敗を肯定し、凶星を落とし、幾多の少女との絆を紡いだ先に訪れた奇跡こそ、桜目律が生み出したこの世界だ。しかし、運命は収束する。そうだ――残り火でしかない私は、眠れる救世主を目覚めさせ、ひとつ上のフェーズへと押し上げるために頂点捕食者としての役を与えられたのだ」


 九十九は赤黒い鎌を構える。


「今思えば、これもお前の差し金だったのだろうな。まったく自分自身であればどう使っても良いとでも思ったか?」


 呆れるように、自身の立ち位置を思い、吐き捨てるように言う。


「桜目律。その身に目覚めた権能を持って、私を殺し来るといい。私もこの身のすべてを持って、お前を殺しに掛かるとしよう」


 律の両手に赤黒い小手が装着される。

 それに九十九は眉を顰める。


「……刀ではないのか?」

「俺は刀なんて扱えないからな」


 律は答える。

 今、律の脳裏には身に覚えのない記憶が駆け巡っている。

 一度も刀を握ったことのない律にとって、記憶の中で刀を手に戦場を賭けている自分自身に違和感しかない。

 多少の戦いを経験しているからこそ、慣れない武器を手にすることは愚かであることを理解していた。

 だからこそ、律は自身の戦闘スタイルに特化した武器を顕現させた。


凶星の施しを与えようマレフィック・ギフテッド。アンタのその鎌も、この魔法で生み出したものなんだろ?」

「どうやら使い方については問題ないようだな」

「……不思議と理解はできるんだよ。存在しないはずの記憶――って言うのは気持ち悪いけどな!」


 律が地を蹴った。

 たった一歩の踏み込み。しかし、その一歩は一気に九十九との距離を縮める。


「縮地か⁉」

「記憶の中の俺がよく使っていたみたいだからな、ありがたく使わせて貰っただけだよ!」


 律が拳を叩き込む。

 インパクトと同時に短文詠唱魔法を発動する。


爆ぜろ(Braze)!」


 打ち込んだ拳に爆発が重なった。

 衝撃により九十九の身体は宙を舞う。

 だが、一点に魔力を集中させることにより、その攻撃を九十九は最小限のダメージで抑えていた。


「いいぞ、桜目律! さあ、私を殺してみるといい!」

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