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かくして秋雨は降る  作者: 霜月風炉
第三章

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第79話

 律の持つ力は金之業と九十九に一度殺された際に発現した不死性。

 アルトリウスの持つ力は聖剣エクスカリバーと所有者として与えられた身体能力と簡単な魔法。

 当然、二人の後方にはマーリンとエリスティマが控え、鈴音と雪もいる。

 バックアップ体制は十分。

 あとは、九十九に届くか否かだ。


爆ぜろ(Braze)


 九十九の発した一言。

 瞬間、律の足下が爆発する。

 だが、寸前で律は前方へ大きく飛び込むことで回避する。

 その間にアルトリウスは動き出していた。

 聖剣を手に九十九へと向かって駆ける。


奔れ(Lightning)

「――雷⁉」


 アルトリウスへ奔った稲妻を、聖剣で弾き飛ばす。


「詠唱無しの未知の魔法。それでも威力が一級品とは、あの男は本当に何者なんだ?」


 マーリンは九十九の放つ魔法に驚きの言葉を溢しつつ、杖を構える。


「我が名はマーリン・アブロシウス。大魔女の誇りを持って、君たちに加護を与えよう。知恵と勇気を持って、その巨悪を打ち払いたまえ」


 杖を一振りする。

 すると、律とアルトリウスの身体を包み込むように淡い黄金の光が放たれる。


「ほう? 加護の術。それも身体強化と魔法防御の増強か?」


 九十九は一目でその光の本質を見抜いた。

 両腕を黒鉄にし突っ込んでくる律を捌きながら、九十九は次の一手を繰り出す。


「短文詠唱魔法では貫けないのならば、これはどうだ?」


 律を蹴り飛ばし、九十九は言葉を紡ぐ。


「音を越え、私は光すらも置き去りにしよう。置いて行かれないように、後から続く者へその意志を指し示すために。私は、私の在り方を此処に見せつけよう。今を越え、未来より敵を穿つ。奔り抜けろ、蒼白の雷霆――迸るは蒼白の雷霆(ブリッツ・ユピテール)


 蒼白の雷を纏い、地を蹴る九十九。

 衝撃波と共に動き出した九十九の姿が、閃光となって掻き消える。


「消えた⁉」

「っ――違う! 律、後ろだ!」


 驚きの声を上げた律を否定し、アルトリウスが声を上げる。

 だが、間に合わない。


「――視野が狭いな、桜目律」


 蒼白の稲妻となった九十九が律の背中へと突っ込む。

 バキバキと骨の砕ける音が鳴り響き、そのまま強烈な勢いのまま律の身体は吹き飛ばされ、水面の上を数度転がっていく。

 普通ならば即死。

 しかし、九十九はつまらなさそうな声音で、吹き飛ばされた律へと向かって言葉を投げる。


「起きろ、桜目律。その程度で死ぬほど、その身に宿る不死性――死が運命をわかつまで(アイビーヘデラ)は弱くない」


 砕けた骨が元に戻ろうと動き出す。

 バキバキと音が鳴り、切れた筋繊維が縫合され、止まった心臓が鼓動を始める。


「カハッ!」


 倒れたまま口から大量の血を吐き、残存する痛みに律は悶える。


「立て、桜目律。その愚行では彼女たちが報われない」

「何ワケの分からないことを言っているのかな!」


 アルトリウスが不意打ち気味に切り込む。

 しかし、その攻撃は難なく回避された――と思われた。


 ガキン――聖剣の切っ先が九十九の被るフルフェイスの仮面に当たる。


「…………」


 仮面は砕け落ち、その下に隠れていた九十九の素顔が顕わとなった。



「どういうこと?」

「あの顔は……いえ、いったい何が……」

 

 その正体を見て、鈴音と雪が驚愕の表情を浮かべる。いや、浮かべざるを得なかった。


「何がどういうことなんだ?」


 アルトリウスも動揺する。

 そんな中、マーリンだけは冷静にその様子を見、そして口を開いた。


「なるほど、合点がいったよ。君が桜目律に対して随分と詳しい理由も、異常な執着も。なぜならば――」


 視線を九十九へ向け、マーリンは断言する。


「――君自身が桜目律だからだ」


 仮面の下にあった素顔。

 それは今よりも少しだけ大人び、目に光がない律の顔をそのものだった。


「違うな、キングメイカーの魔女。私は桜目律のような優れた人間ではない。私は失敗を繰り返し、全てを覆した者に後を託した敗北者だ」

「そう。なら、君はこの世界の桜目律をどうしたいのかな?」


 マーリンの問いに、九十九は答える。


「私は、この世界を創り出した桜目律に責任を全うさせるために動いているに過ぎない」


 そして、九十九は悶えている律へ視線を向ける。


「いつまで悶えるつもりだ。私の知る桜目律はこの程度では止まらなかった。いい加減に思い出せ。お前は彼女たちに何を託されたのかを!」

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