第76話
アンネリーゼとの戦いを繰り広げる秋雨の様子を視界の端で見つつ、玲香は目の前にいるアレクシスへ意識を集中する。
「来たる脅威――たしか……収獲者だったかしら? それに負けたのはアナタたちの力が及ばなかったに過ぎないワケでしょ? それを頂点捕食者としての役割云々言われる筋合いはないわ。そもそも、アナタたちがその役割をどの程度果たしたのかは知らないけど、失敗したのよね? なら、その失敗を押し付けられても困るのよ」
「……押し付けているワケでは、個が優れたところで奴らには意味をなさない」
「だからと言って、戦えない人間の強度を上げて何になるの?」
「その認識こそが間違いなのだ。故に、我々は人類全体の強度を上げようと言うのだ!」
アレクシスは知らしめるように叫ぶ。
しかし、玲香はそれを冷めた目で見ながら、首を横に振る。
同時にアレクシスへと向かって術を放つ。
木之業・陽型――木枝槍。
大地から突き出した無数の木の槍が、アレクシスへと向かう。
だが、その木の槍をアレクシスはノイズの奔る剣ですべて斬り伏せる。
「これならどうかしら?」
木之業・陽型――木之業・陽型――死ノ小林檎。
一本の木がアレクシスを突き上げるように生える。
しかし、アレクシスの身体はノイズと共にブレ、突き刺さることはなく。その木の隣に移動していた。
「くだらないな」
「……それは権能かしら?」
「答えるとでも思うか?」
「へえ、なら吐かせてみようかしら」
玲香のその言葉と共に、周囲に熱波が吹き荒ぶ。
「火産霊」
赫灼の炎が玲香を中心に立ち上がる。
火産霊。別名、火之迦具土神。
以前、使用した天照ほどではないにしろ、周囲を灰に変えることすら可能な熱量を放っている。
このままでは周囲に悪影響を及ぼすことを見越した紅蓮が対策を講じる。
火之業・陽型――零点火。
紅蓮の操る術を大半が火と誤認しているが、その本質は熱である。
熱を上げることにより火を生み出す。これは最も扱いやすいことも理由だ。
しかし、熱を上げることができるのならば、下げることもできる。
それを実現させたのが零点火であった。
「流石に頂点捕食者としての権能である火産霊の熱を完全に下げることはできないが、幾分かマシにはなっただろ?」
「そうやね。やけど、まだ本気やないよ?」
「……勘弁してくれ」
遥の言葉に、紅蓮がゲンナリとした表情を見せる。
そうしている間に、玲香は火産霊をアレクシスへとぶつける。
「さて、どう潜り抜けるのかしら?」
「……この程度、何てことはないな」
迫る火産霊を前に、アレクシスはノイズの奔る剣を振るった。
「数値改竄――熱は0となる」
その言葉と共に火産霊が霧散した。
「へえ?」
「この程度で我々を倒せると思っているのなら、舐められたものだ」
アレクシスは告げる。
対して、玲香は楽しそうな笑みを浮かべていた。
――と、アレクシスの背後を取る影がひとつ。
「ハッハハ、随分と余裕そうだが、これならどうだい?」
剣鎧を纏ったカルロスだ。
「強者ならぶち込まねぇとなァ!」
「ま、その通りね」
アレクシスの頭上に銃を構えたルークとガーネットも躍り出る。
「――無駄だ」
カルロスの拳。
ルークとガネットの放つ弾丸。
そのすべてがなかったことになった。
それはまるで時間を巻き戻されたような異常だった。
「何が起こった?」
カルロスが声を上げる。
そんな隙をアレクシスが見逃すはずもない。
ブオン――ノイズと共に剣が振るわれた。
剣鎧のお陰で斬り割かれることはなかったが、その衝撃までは殺すことができず、十数メートル吹き飛ばされることになる。
当然、ルークとガーネットの二人に対してもアレクシスは対処する。
が、ガーネットが即座にその動きに気づき、ルークの首根っこを引っ掴んで退避した。
「危なかったわ」
「締まってる! 姐さん、首締まってる!」
ルークの言葉を無視しつつ、冷や汗を拭いながらガーネットは一息吐く。
「なるほど。それがアナタの権能ってワケね」
玲香が確信したように告げる。
アレクシスは答えない。
「答える気はない? まあ、良いわ。面白くなってきたじゃない。思う存分、やりあいましょう?」




