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かくして秋雨は降る  作者: 霜月風炉
第三章

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第72話

「うっ……」

「雪、気がついた?」

「鈴音さん?」


 雪が目覚め、鈴音の肩を借りながら立ち上がる。

 それに気づいた九十九は口を開く。


「目覚めたか、桜目雪。まあ、良い。これで役者は揃ったか。ならば、舞台を整えるとしよう」


 その言葉の後、九十九は詠唱を始める。

 

 「絶望のほとり、果てぬ冥闇に決別を。多くの嘆きと哀しみを垣間見、救われぬ者たちの声を知る。これは現実を否定する自惚た自己満足に過ぎない。されど、私は向き合おう。これこそ天上の神々へ反旗を翻す正義無き愚か者の紡ぐ罪歌なり。蒼白の雷霆(ユピテール)よ、刮目せよ。これは次元と事象を隔てる境界を創造する奇跡なり」


 それは、とある魔法少女が行使した長文詠唱魔法。

 対象範囲内の事象全てに干渉し、創造、巻き戻し、再演するご都合主義が形になった魔法。

 今、世界は上書きされる。

 地は一面の水面が広がり、壁は存在せず、頭上には雲ひとつない蒼穹が広がる。そして、蒼い稲妻が時折奔っていた。


「――落花再演の雷霆デウス・エクス・マキナ。これは『様々なものを失っても尚、諦めなかった彼女の最期の意志により発現した魔法』だ。さて、これで邪魔する者の介入の心配はなくなった」


 九十九の行使した魔法に、マーリンは目を見開く。


「世界の構築だって⁉ これは結界なんて生易しいものじゃない。元々ある世界に新しい世界を、テクスチャーを上書きなんて、それこそ神の奇跡と言っても過言じゃないぞ!」


 常識を覆す頂上の魔法。

 それはマーリンですら再現できないものだった。

 

「……人の意志というものは、時に神の想像すら超越する。ああ――これこそが生命体としての強度を強くするのだろうな」

「――ッ⁉」


 瞬間、マーリンへ向かって九十九が動いた。

 鎌を大きく振りかぶり、斬りつけようとする九十九。

 しかし、その間に割り込み鎌を弾く者がいた――アルトリウスだ。


「マーリン、下がって!」


 アルトリウスの言葉に頷き、マーリンは後方へ――雪と鈴音のいる場所まで下がる。

 

「なるほど、あの時よりも成長しているようだな聖剣使い」

「当然! これは僕のリベンジマッチでもあるからね」


 そう言うアルトリウスだったが、マーリンへの攻撃に反応できたのは直感だった。

 少しでも遅れていれば間に合わなかっただろう。


「余所見しているばあいかしら!」


 横から九十九を飲み込まんとする魔力砲が突っ込んでくる。

 だが、九十九はその魔力砲をその手の鎌で斬り割く。


「魔力ゴリラか」

「誰がゴリラよ! アタシはエリスティマって名前があるのよ!」


 エリスティマの抗議の声を聞き流す九十九。

 そんな中でアルトリウスが律へと言葉を掛ける。


「律だったかな。君の力を貸してほしい。いや、この戦いの要は君だよ」


 確信めいた顔で告げるアルトリウス。

 

「……俺にはアイツの言うような力はない……と思う」

「そんなことは別に良いんだよ。だけど、彼が君に執着する理由が本当であるのなら、その身に力が眠っていることも事実かもしれない。だからこそ、僕はその可能性に賭けたい」

「それは……あまりにも博打が過ぎるんじゃないか?」

「そうかもしれないね。だけど、相手は僕たちを遥かに凌駕する頂点捕食者だよ。奴を倒す可能性があるのなら、僕はその可能性に全てを賭け(オールイン)するよ」


 アルトリウスは当然のように告げる。

 そのあまりの清々しさに、律は笑いが込み上がりそうになった。

 だが、同時に意志が固まった。

 九十九の思惑なぞ正直知ったことではない。だが、今この場を切り抜けなければならない。

 己の中にある力を引き出せ――九十九の告げた言葉を、律は頭の中で繰り返す。


「恨まないでくれよ。正直、俺もよくわかっていないからさ」

「当然。例え、君の力が目覚めないとしても、そもそも負ける気はないけどね」


 律は両腕を黒鉄に変え、アルトリウスは聖剣を構える。


「さあ、行こうか――律!」

「オーケー、アルトリウス!」


 二人の意志を真っ向から受け止めた九十九は、そのフルフェイスの仮面の中で口角を上げた。

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