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かくして秋雨は降る  作者: 霜月風炉
第三章

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第70話

「……弱いな」


 床に倒れ伏す律と音を見下しながら、九十九は吐き捨てるように言う。

 律は何とかふらつきながらも立ち上がる。


「桜目律。新世界を生み出した結果が、この体たらくか。実に嘆かわしい」

「アンタが俺の何を知っているのかは知らないが、馬鹿にされる筋合いはないぞ」

「馬鹿にしているのではない。憐れんでいるのだよ。これでは彼女たちにも顔向けできないだろう」


 九十九は赤黒い鎌を構える。

 フルフェイスの仮面に隠れた表情がどうなっているのか、律は伺い知れない。

 だが、突き刺さる視線には明らかな失望の念が感じられた。


「新世界となり、はじまりの魔女(シネンシス)として成立することのない桜目雪。彼女には用はない。寧ろ……少しだけホッとしたとも言うべきだろう」

「……どういう意味だ?」

「――口が滑ったな。まあ、良い。知りたいのならば自らの実力で吐かせてみせろ」


 九十九が一気に律へと肉薄し、その手の赤黒い鎌を首へと奔らせる。


「――――⁉」


 ガキィン――金属同士がぶつかり合ったような甲高い音。

 それは黒鉄に変質した腕で鎌の攻撃を防いだ音。


「だらぁ!」


 鎌ごと乱暴に弾き、律は接近していた九十九の懐へと入り込み、拳を突き出す。


「雑だな」


 そんな言葉を吐きながら、九十九は簡単に回避してしまう。


「仮初の平和を享受した結果がこれか? いや、この世界の記憶しかないお前に言ったところで無意味か?」

「……仮初の平和? この世界の記憶しか? 本当に何を言っているんだ?」

「桜目律は魔女によって滅びる世界を変えて見せた。そして、この新世界が生まれた。しかし、因果は収束するもの。世界の滅びは決定しているということだ」


 九十九の告げる言葉。

 それは嘘か真か――律は眉間に皺を寄せる。


「何を知っているんだ?」

「この世界に来たる脅威と世界の因果」


 律の問いに九十九は迷いなく答え、そう断言してみせた。


「本来、この世界ははじまりの魔女(シネンシス)により壊滅。その時代より誕生した魔法少女と魔女の長い戦いが始まる。そして、終わりの魔女(スカビオサ)によって世界は終局を迎えるはずだった。しかし、その運命を変えたのが――お前だ、桜目律」


 九十九は告げる。

 はじまりの魔女(シネンシス)終わりの魔女(スカビオサ)。そして、運命を変えた。

 しかし、律にはそのような覚えは何もない。


「滅びの運命を塗り替え、世界を救った。そして、その果てに魔女が生まれない世界を創造したはずだ。だが、その結果はどうだ? 因果は変わらず、要因が変わっただけ。いや、魔女が生まれないことにより、犠牲になる少女が減ったことは良いと言えるか」

「ワケがわからないこと言ってんじゃねぇ! 結局、アンタは何がしたいんだよ!」

「そうだな……私の目的はただひとつ」


 九十九は鎌を構えた。


「私は頂点捕食者として、桜目律という生命体を次のフェーズへと押し上げる」

「何を言って――」


 その時だった。

 九十九の頭上に空間の歪みが生じる。

 そして、その歪みの中からひとつの影が飛び出してくる。


「剣閃輝け! エクスカリバー!」


 強烈な閃光が九十九を飲み込もうとしたが、九十九はその輝きを鎌を振るうことによって払う。


「――いつかの聖剣使いだな?」

「そうだ! 再戦といこうか!」

「鬱陶しい!」


 九十九は瞬間で、聖剣使いであるアルトリウスの背後に立ち、その背を蹴り飛ばした。


「くっ⁉」


 そのまま吹き飛ばされるが聖剣を床に突き刺し、スピードを緩めることで壁への激突を回避する。

 そんな最中、倒れている雪の側に空間の歪みと共に複数の人影が現れる。


「律、雪、無事?」

「鈴音さん⁉」

「アタシもいるわよ?」


 歪みから現れたのは鈴音とエリスティマ。

 そして――マーリンだ。


「助太刀ってヤツだね。ま、結構ボロボロみたいだけど、よくやった。アルも大丈夫かい?」

「はい。一発くらいましたけど、問題ないよ!」

「よろしい。さて、九十九とかいう頂点捕食者よ、よく聞くと良い」


 マーリンは九十九を睨みつけながら口を開く。


「前回は私のアルを随分と甚振ってくれたようじゃないか? ま、アレさ。お礼参りだ」

「……キングメイカーの魔女。私はお前たちに用はない」


 九十九の淡々とした言葉に、マーリンが青筋を浮かべながら叫ぶ。

 

「テメェになくてもこっちにはあるんだよ! クソ野郎! アルを半殺しにした落とし前、きっちり清算してやるからな!」

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