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かくして秋雨は降る  作者: 霜月風炉
第三章

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第68話

 はじめに動いたのは玲香だった。

 人間離れした踏み込み。床を砕き、瞬く間にアレクシスへと肉薄する姿を披露する。

 これを己の身体能力のみで行っているという事実に、玲香の異常性が顕わとなる。

 右手で拳を作り、躊躇いなく玲香はアレクシスへの顔面に鉄拳を飛ばす。

 ブオン――そんな音と共に、アレクシスの顔面はノイズが奔った映像のようにブレてしまい、その拳は空を切った。


「へえ?」

「お返しだ」


 アレクシスの拳が玲香の腹部を突き刺す。

 くの字に曲がった玲香は吹き飛ばされるが、宙で体制を整え、そのまま着地する。


「普通の人間だったら死んでいるのだけど?」

「お前は普通の人間ではないだろう、神木守玲香」


 一連の流れは僅か数秒で起こった出来事。

 そのスピード感もさることながら、頂点捕食者同士の激突によって生じた闘争の覇気を一身に浴びた周囲の者たちは各々違う反応を示していた。

 政府関係者は口から泡を吹いて失神。

 五行神家の二人は涼しい表情を浮かべ、銃士協会の二人は獰猛な表情を浮かべていた。

 一方、十二勇士のカルロスは興味深そうに頂点捕食者の戦闘を眺め、レアは顔色を悪くしていた。

 異世界組のミルディール、リファ、ノヴァクについては、失神まではいかないがその覇気に呑まれかけていた。


「これが頂点捕食者ですか……」


 リファが額に脂汗を滲ませながら言う。

 ノヴァクも似たような状態ではあったが、何とか意識を保っているミルディールを支えていた。


「とんでもないな。だが、これでもお互い全力ではなさそうだ」


 険しい顔をしながらノヴァクは言う。

 そんな周囲の状況などつゆ知らず、玲香はアレクシスへと不敵な笑みを浮かべつつ問う。


「人類を生命体として次のフェーズへと上げる。実に素晴らしい思想だわ。それが頂点捕食者としての役割であったとしても、本当にそれが正しいとは限らない。元来、頂点捕食者は『人類を守護するために人類に敵対する存在』である。ええ、そんなことは頂点捕食者になった時点で認識しているわ。だけど、それを全うすることに意味がある?」

「愚問だな。何故、この地球(ほし)に頂点捕食者が誕生したのか。それは地球が来たる脅威を認知し、この惑星に生きる生命体の頂点である人間を対抗できる存在にする必要があると決定を下したからに他ならない。だが、神木守玲香はそれを拒絶した。故に、脅威を知る我々は呼び出されたのだ」

「――――ああ、地球の有難迷惑ってヤツね。来たる脅威……ね? それは本当に訪れるのかしら? ご存じの通り、私を除いても、この地球にはそれなりの実力者が存在しているわ。それでも足りないとでも?」


 玲香としても、何だかんだ頂点捕食者としての矜持はある。

 身勝手によくわからない役割を押し付けられ、それを拒絶すれば他所から同族を連れてくる――正直、面白くはなかった。

 来たる脅威。

 それが一体どのような存在であるか、玲香は認識していない。

 だが、頂点捕食者としての権能の他に、神木守家の相伝術式もある。

 自身が最強であると誇る玲香にとって、その来たる脅威に対しても問題ないと考えていた。

 イギリスの聖剣使い。

 フランスの勇士。

 アメリカの銃士。

 異世界の勇者。

 その他の実力者たち。

 そして、五行神家。

 玲香に及ばなくとも、それなりの強者は存在している故に、問題にならない。

 だが、アレクシスは小さく息を吐き、口を開く。


「足りない」


 視線を鋭くし、続ける。


「来たる脅威に対して、僅かな強者では対抗できない。勿論、神木守玲香ひとりでも無意味だ。奴らは狡猾にして傲慢であり、卑劣にして非情だ。アレは少数で立ち向かえる脅威ではない!」


 アレクシスは吠える。

 それは玲香だけに告げている言葉ではなく、アレクシス自身にも向けた言葉であった。


「故に、この地球の人類に、我々は同じ轍を踏ませるワケにはいかないのだ! 神木守玲香――己の役割を果たさないと固持するのであれば、今ここで死ね!」


 アレクシスの纏う圧が膨れ上がる。

 しかし、玲香は表情を変えることもなく口を開いた。


「私を殺せるのならやってみなさいな?」

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