第66話
この場を戦場とするには狭過ぎることと戦えない者たちもいる。
故に、秋雨は即座に戦場を移すことを判断した。
アンネリーゼはあくまでも秋雨の相手することを目的としているのなら――――。
「庄司、アンネリーゼを外へ吹き飛ばす」
「了解だ」
水之業・陰型――水鏡渡り。
バシャンという音と共に、秋雨はアンネリーゼの眼前へと躍り出る。
「ダンスのお誘いかなぁ?」
「舞台を変えるだけだよ!」
水之業・陽型――水轟砲。
圧縮された水の砲弾を至近距離からアンネリーゼへ撃ち放つ。
秋雨の水轟砲はアンネリーゼ共々、部屋の壁を突き抜け、外へと放出された。
「玲香さん、此処は頼みます!」
「ええ、気張りなさいな」
玲香の言葉すべてを聞き終わる前に、秋雨は自身の開けた穴から外へと飛び出る。
その後を追うように奏多も走り始める。
「リファ、ノヴァク! ミルディを頼んだぞ!」
その言葉に二人は頷く。
奏多も秋雨の後を追い、外へと飛び出す。
「ぺっぺ……冷や水ぶっかけるなんてぇ、随分と熱烈だねぇ?」
「あの水圧をくらってピンピンしていやがるのか……」
氷刃刀を手に秋雨はアンネリーゼから視線を逸らさない。
そんな秋雨の隣に奏多も到着する。
周囲には水流と轟音と共に現れた三人の姿にカメラを向ける報道陣たちがいた。
「ふぅん? 世界同時放映ってヤツぅ?」
「そんな意図はない。広い方が戦いやすいだろう」
カメラを向けている報道陣たちの存在に内心舌打ちをしながら、秋雨は地を蹴る。
アンネリーゼへ一気に肉薄し、氷刃刀の刃をその首へと奔らせる。
が、その刃は黒い雲によって遮られる。
「雷光斬!」
アンネリーゼの背後へ移動していた奏多が斬り掛かる。
しかし、その斬撃も黒い雲によって遮られた。
「不意打ちだなんて、勇者としてどうなのかなぁ?」
「正攻法でアンタたちみたいな頂点捕食者に敵わないってことくらい理解しているからなッ!」
後ろへ跳んで奏多はアンネリーゼと距離を取る。
同時に報道陣へと叫ぶ。
「申し訳ないが、全員この場から離れてくれ! これは催しでもなんでもない!」
しかし、報道陣はこのスクープを逃すまいと、カメラを向け続けている。
レポーターの発言にも熱を帯びており、言葉だけで退かないことは明らかだった。
奏多は顔を顰めつつ、フィニステラを構える。
そんな奏多の隣へ、秋雨がアンネリーゼとやり合った末に着地する。
「あの黒い雲が厄介過ぎる。何処からでも湧いて来やがる」
「まったくだ。一体、アレは何なんだ?」
毒吐く秋雨と同意の意を示す奏多。
そんな二人をクスクスと笑いながら、アンネリーゼは口を開く。
「うんうん。今回は手を抜く気はないからさぁ、あの時みたいな不意打ちみたいな術を受ける気はないからねぇ? それに、この惑星の頂点捕食者はアレクシスが対応する以上、君たちに勝ち目はないんじゃないのかなぁ?」
アンネリーゼの周囲に漂う黒い雲。
その中に潜む何かに触れるのは即死を意味する――そんな共通意識が秋雨と奏多にはあった。
アレがアンネリーゼの権能であるとしても、明らかに異質だ。
「アンネリーゼたちの目的がわからない以上、時間を掛けず早々に片付けたいところだが……」
秋雨はジッとアンネリーゼを見る。
「熱い視線だねぇ? どお? 私と一緒にユゴスに来てみない?」
「誰が行くか。ここで確実に仕留めてやるよ、アンネリーゼ!」
「ふふっ、ああ――これが求められるってことなのかなぁ? 良いよ、私が全部受け止めてあげる」
両手を広げて言い放つアンネリーゼ。
奏多が怪訝な表情を浮かべる。
「……玉水? 会話のやり取りに違和感があるんだけど?」
「違和感なんざ、ずっとあっただろ。何を今更」
「いや、何て言うか……玉水に向ける視線も熱を帯びていると言うか……」
「戯言は良いだろ。とにかくアンネリーゼだけは必ず討つ」
奏多の疑問をバッサリと切り捨て、秋雨は手に持つ氷刃刀へ殺意を乗せる。
思考はクールに、ただ意志は明確に――両親を殺された敵を討つことも思考としてはある。しかし、ここで熱くなり過ぎても本末転倒だ。
同じ過ちは繰り返さない。
秋雨は冷静に場の状況を見極める。
(会場から飛び出して広くなったとは言え、マスコミが邪魔過ぎる。カメラを向けられた以上、隠すつもりはないが血生臭い光景を見せることになるのは……いや、どうしようもないな。その時はテレビ局の奴らに頑張ってもらおう)
後のことは知ったことか。
秋雨は現状の問題を全て放り投げ、目の前のアンネリーゼにのみ集中することに決める。
「庄司、着いてこれるか?」
「――当然!」
二人は再びアンネリーゼへ向かって、地を蹴る。




