第62話
「なんて冗談に決まっているでしょう。ただの一般人を打ち抜くほど終わったつもりはないわ」
そんなことを言うガーネットの表情は笑っていたが、目は少しも笑っていなかった。
隣に座っているルークは「うわぁ」と露骨に引いた表情を浮かべている。
「さて、悪ふざけが過ぎたのもあるのだけど――そろそろパーティが始まりそうね?」
不意にガーネットがそんなことを言い始める。
秋雨を含め、この場にいた殆どの者たちが理解できておらず、そんな素っ頓狂な発言に首を傾げる。
一方、ルークは目を鋭くし、鼻を鳴らしながら腰の銃へと手を掛け、立ち上がる。
何かわかりますか――と、秋雨が玲香に聞こうと顔を向けると、口角を上げて上機嫌な玲香の姿があった。
瞬間、秋雨は全てを察する。
「遥さん、鈴音さん、紅蓮さん――厄介事が起きますよ」
立ち上がりながら言ったその言葉に、三人は怪訝な表情を浮かべたが、玲香の様子を確認するや否や表情を引き締め、秋雨に続く。
「アル、エリス。二人とも構えるといい」
マーリンが椅子から立ち上がり、何処から杖を取り出す。
アルトリウスとエリスティマも自身の獲物を取り出し、構える。
なにも理解できていないのは政府関係者と異世界組だ。
「玉水⁉ 一体何が――――」
奏多が秋雨へ問い質そうとした時だ。
ブオン――そんな音と共に、周囲の景色が一瞬にして変質する。
先ほどまでいた部屋の様相からは打って変わり、赤と黒のキューブが折り重なった像物の立ち並ぶ風景が広がっている。
座っていた者たちは椅子が消失したことで尻餅をつき、非現実的な状況に狼狽える者も現れる。
「――人類とは実に愚かで、嘆かわしい。己の利益と保身のために、脅威すらも度外視する。その本質こそ、人間が獣であることの証明であるかも知れんな」
ノイズのような音と共に現れるアッシュブロンドの頭髪に、エメラルドの瞳を持つ男。
「アレクシス・ワイセンベルク⁉」
奏多が目を見開き、男の名を呼ぶ。
「奏多、彼がそうなのか?」
「ああ、話をしたアンネリーゼと同じ頂点捕食者のひとりだよ」
ノヴァクの問いに奏多は答える。
「地位球の頂点捕食者、そして勇者も久しいな。そして、挨拶が遅れて申し訳ない。我々の名はアレクシス・ワイセンベルク。別の世界を由来とする頂点捕食者だ」
言葉の節々に強烈な圧力を含ませながら、アレクシスは告げる。
各国の政府関係者は顔色を悪くし、猫に狙われた鼠のように縮こまっている。
「はぁい? 元気にしていたかなぁ、秋雨君?」
「――アンネーゼ……」
アレクシスの隣にアンネリーゼも姿を現す。
「さて、舞台の幕は上げるとしよう。どうやら九十九の方も始めたようだ」
アレクシスの言葉に鈴音が目を見開く。
「まさか……律を狙った⁉」
「さあな、我々は九十九の動向については知る由もないがね」
意味ありげに答えるアレクシスに、鈴音が奥歯を噛む。
――と、その会話を聞いていたマーリンが声を上げる。
「良いことを聞いた。早速のリベンジ到来だ。アル、エリス、跳ぶとしよう」
マーリンが杖を掲げる。
「神金守の当主殿、君も来るかい?」
「はい!」
マーリンの誘いに鈴音が乗る。
「それではそこにいる頂点捕食者の相手は頼んだよ。私たちは九十九のぶっ飛ばしに行くからね」
瞬間、マーリン、アルトリウス、エリスティマ、鈴音の四人の身体を淡い光が包み込む。
「そうそう、アレクシスって言ったかな? 君、面白い存在みたいだね?」
「……魔女会の長か」
「ふーん、語るつもりはないのか。まあ、良いや。それじゃ、生きていたらまた会おう」
アレクシスの反応に対して、白けた表情を浮かべたマーリンはそう言い残して、他の三人と共に姿を消す。
「易々と結界を越えていくか。面白い」
マーリンの術を興味深そうに観察したアレクシス。
そして、指をパチンと鳴らす。
その音と共に全員の身体を赤と黒のキューブが覆っていく。
「な、何ですか⁉」
ミルディールの動揺した声が響く中で、アレクシスは高らかに宣言する。
「さて、降りかかる火の粉を払い、人類として矜持を我々へ見せてみるといい!」




