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かくして秋雨は降る  作者: 霜月風炉
第三章
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第60話

 全ての視線が玲香へと集中する。

 事の発端であるガーネットは口端の両端を上げながら、「さあ、何を話す?」と言わんばかりの視線を玲香へと向けている。

 対して、玲香は腕を組んで楽しそうな表情を浮かべていた。


「――神木守玲香殿、話してもらえますか?」


 誰かが話を促した。

 重くなる空気と緊張感に数名が顔色を悪くする中、ようやく玲香が口を開く。


「銃士協会の組織長様のご要望とあれば、話をする他ないかしらね」


 ゆっくりと立ち上がり、玲香はガーネットを一瞥する。


「頂点捕食者。それは各世界、或いは惑星の免疫的役割を担う存在と思ってもらって構わないわ。まあ、人間でいう白血球と言うべきかしら。今はその認識を持ってくれたら問題ないはずよ。で、私はこの地球のおける頂点捕食者ってワケ――よろしいかしら?」


 その問いかけに誰も声を上げない。

 突如として明かされた真実に絶句しているのか、或いは玲香という存在に蹴落とされているのか――――。


(漏れている威圧に当てられるみたいだな)

 

 玲香から漏れている威圧。

 異能力組織に所属している者たちは涼しい顔をしている。だが、一般人――政府関係者たちの顔色は明らかに悪い。

 そんな中でガーネットが楽しそうな声音で言葉を発する。


「そんなに威圧するのはいただけない。それでは周りが委縮するだけじゃないの?」

「この程度で委縮されるようじゃ、私たち五行神家を手中に治めるなんて無理なんだけどね。ああ、日本政府の皆さんの思惑なんて、こちらは既に認識済みよ。身内に手出しするなんて卑怯な真似を行うあたり、実に滑稽ね」


 ギロリと視線を日本政府関係者へと向けながら、玲香はピシャリと言い切った。


「ま、直接私たちに攻撃しないあたり、とんだ腑抜け。それも政治家だから反撃されないとでも思っているのかしら?」


 瞬間だった。

 日本政府内閣官房長官を務める男の足下から蛇のようにうねる木が生え、その男を縛り上げた。


 木之業・陽型――うねり木蛇(もくじゃ)

 

 突然の出来事に唖然とする者がいる一方で、一部の者からは怒声が上がる。


「これは問題だぞ!」


 しかし、玲香はそんな怒声には微塵も反応せず、縛り上げている男へと言葉を投げかける。


「さて、こそこそ神木守家の関係者を漁っていたようだけど、流石に黒子の身内――それも未成年にまで手を出そうとしているのはいただけないわね」

「……日本国を守る為だ。必要経費であろう」

「必要経費ね。なら、今ここでアンタを絞め殺すのも後世の為ってことで良いかしら?」


 男を締め上げる力を徐々に上げながら、玲香は冷たい視線を突きさす。


「さて、銃士協会の組織長様? 頂点捕食者について簡単に話をしたわけだけど、問題でもあるかしら?」


 男から視線を外し、玲香はガーネットへと問う。

 その問いを向けられたガーネットは、「くっくく……」と声を殺しながら笑い声を上げる。


「実に良いわ。最高よ、神木守玲香! この場所じゃなかったら、弾丸をぶっ放していたわ!」

「私はいつでも相手になるのだけど?」


 お互いの殺気がぶつかり合うことで場が殺伐としていく。


「はいはい、お姉さま方は落ち着き給えよ。ここはあくまで会談の場だ。血を見せる戦場じゃないんだぜ?」


 空気を読まないカルロスが二人の間に割って入る。

 同時に男を縛り上げていた木を、腰に差していたジョワユーズで細切れにしてしまう。

 自由になった男はそのまま床に尻から落ちる。


「神木守玲香……ただで済むとは思わないことだ!」


 男は立ち上がるとそんなことを叫ぶ。

 が、それをカルロスがゴミを見るような目で見る。


「おいおい、俺は別にテメェを助けたくて動いたワケじゃねぇんだ。何を勘違いしているかは知らないが、俺たちにとって政府なんざ、どうだって良いんだ。日本の政治家がどれだけ偉いのかは知らないが、テメェみたいなゴミは総じて価値がないもんだ」


 カルロスが男だけに向けた殺意を向ける。

 すると男は白目を剥き、口から泡を吹いて倒れてしまった。


「ったく、この程度で気絶するんなら喧嘩売ってくるもんじゃねぇよ」


 カルロスの呆れ声が響く。


「さて、馬鹿の処理は終わったぜ。決闘も全然アリだとは思うが、俺個人としては日本に集結している頂点捕食者についてお伺いしたいもんだ?」

 

 場が慌ただしくなる中で、カルロスは玲香へ向かって問いかける。


「……奴らの目的は『人類を生命体として次のフェーズへと上げる』こと。まあ、向こうからすれば試練を与えているつもりみたいね」


 毒気が抜かれたのか、玲香はやれやれと首を振りながら答える。


「へえ、それは随分と傲慢な思想を持っているのね」

「銃士協会の組織長様は随分と過激な思想をお持ちみたいだけど?」

「アナタが言えた言葉ではないでしょう、神木守玲香」


 一部の者たちの間で場が温まっていく中で、一般人と異世界組の空気は冷え込んでいく。


「これは……どう考えれば良いのでしょうか?」

「今は静観する方が得策だと思うぞ、ミルディ」

「神木守さんが強いことは聞いていましたが……それ以外の人たちも規格外ですよ」


 困惑の表情を浮かべるミルディールを、奏多が声を掛け、リファは異能力組織の面々についての所感を語る。


「特にそれぞれのトップは神木守さんほどではないにしても、ゾティーク内だけでも敵なしかもしれません。ノヴァクはどう思いますか?」

「十二勇士の団長殿については、団長と言うだけあって凄まじいものだ。少なくとも自分では相手にならないな」

「……奏多の世界はゾティーク以上の魔境かも知れません」


 リファの呟きに、奏多は「そう、かもな」と苦笑いを浮かべるしかなかった。

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