第58話
定刻になった。
各国の報道陣が詰め寄せる中で、各々の代表が揃って所信表明演説を行うことになっていた。
まずは政府首脳から始まる。
各国と異世界との友好関係の構築。そして、異能力組織との連携を主としている旨の表明を、それぞれの首脳が述べていく。
次にマイクを取ったのは異世界ゾティークの王族であるミルディールだ。
「この世界の皆さま、はじめまして。私はゾティークの第一王女ミルディール・フォン・オルディーネと申します。私たちの世界は、勇者カナタ様と友人たちのてによって救われました。私はそんな英雄たちの生まれた世界の皆さまと友好的な関係を築きたいと考えております。本日が有意義な会談になることを期待し、素晴らしい成果を残せるよう精進いたします」
童話の中から飛び出してきたようなお姫様のようなドレスを身に纏った姿で、優雅に一礼を行う。
なお、後ほどその姿をテレビを見た女児たちのあこがれの存在となるのだった。
世界が固唾を飲む会談。
ここまでの所信表明演説に心配の要素はなかった。
だが、ここからは異能力組織の代表による演説。
ミルディールまでは広がっていた和やかな雰囲気が、瞬く間にピーンと張り詰めた空気に変容する。
その緊張感はテレビの向こうにいる視聴者たちにも伝わるほどであった。
「さて、まずは俺たちから話をさせてもらおうか」
和服を身に纏った男――紅蓮がマイクを取る。
「五行神家の一角。神火守家当主、神火守紅蓮だ。公には初の顔出しとなっているが、当主の中では俺が最年長だ。まあ、堅苦しい話は苦手でね。ちゃちゃと済ませちまおう。俺たち五行神家はゾティークとの友好関係を築くことに拒否感はない。だが――」
紅蓮はギロリと日本政府関係者たちへと視線を向ける。
「――俺たちを制御できると思うのならお門違いだ。俺たちには俺たちの使命が存在している。世の中はギブアンドテイク。持ちつ持たれつで行こうや」
以上――と、高らかに宣言する紅蓮。
ざわつく現場だが、次にマーリンがマイクを取る。
「魔女会の魔女長を務めているマーリン・アンブロシウスだ。私たちとしては兼ねてより五行神家の当主の者たちとは友好的な関係を築いている。これついては今後も継続していく所存さ。さて、私たちも魔女会として牽制をさせてもらう。イギリス政府の皆さん、魔女会は君たちの制御下には決して置かれない。これはイギリス王家の名の下に決定している事項さ。だから、無意味な強硬策は愚策だと宣言しておこう」
さらりと告げられた衝撃の事実。
イギリス政府関係者が慌ただしく動き始めている。
それもそのはず、王家の名の下――それが指し示すのは魔女会とイギリス王家には何らかの繋がりがあること。
マーリンは満足げに眺めながら、口元を緩めている。
そして、そんな様子を見ていたエリスティマが渋い表情を浮かべ、アルトリウスは苦笑していた。
「はっはは、流石はマーリン女史だ! 実に面白いな! では、俺も最大限に盛り上げていこうか!」
声高らかに宣言するのはカルロスだ。
「俺は十二勇士団長のカルロス・マグヌス。先の一件で俺の名は知れ渡っている事だろう!」
先の一件とは、博多駅で繰り広げられた秋雨との一戦だ。
秋雨は眉間に皺を寄せ、拳を固く握りしめる。
「俺たちも五行神家、魔女会と同様に、制御下に置かれる気は毛頭ない! 自由こそ俺たちの真意だから。目的はただ一つ――日本に集結している頂点捕食者とイギリスに眠る赤き竜と白き竜について。それだけさ!」
カルロスの言葉に、異能力組織以外の殆どの人々が首を傾げる。
この場にいた奏多は頂点捕食者の存在は知っているが、赤き竜と白き竜について初耳だった。
「さて、十二勇士としてはこれ以上はないのだが……君たちはどうだい? 銃士協会の組織長殿?」
カルロスからマイクを投げ渡されたガーネットは溜め息交じりに口を開く。
「さあ、十二勇士の団長殿は随分と楽観的のようね。ふぅ……紹介に預かった銃士協会の組織長を務めているガーネット・ジェーンよ。先の三組織と同様に何処かの下に着く気は微塵もないわ。例えそれがアメリカ政府だとしてもね」
大胆不敵にガーネットはハッキリと言い切る。
「私たちの目的は十二勇士と同じく日本に集う頂点捕食者、イギリスに眠る赤き竜と白き竜について。そして、阿蘇より目覚めたルクシャ・ハーナについてよ」
会談冒頭から各国の政府、及び異世界組と異能力組織との間に目的の隔たりがあることが明確になる。
元より友好関係など築く気のない組織に、政府関係者たちは頭を痛める。
一方、異能力組織の面々は互いに視線を巡らせ、バチバチに火花を散らしている。
「銃士協会からは以上よ。皆さん、有意義な会談にしましょう」
表面上はにこやかな笑みを浮かべるガーネットだったが、その眼光は獰猛な獣そのものだった。




