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かくして秋雨は降る  作者: 霜月風炉
第三章
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第57話

 人類の自由意志を信じようとしたところで、きっと裏切られて終わる。

 結局のところ、人類とは愚かでしかない種であり、追い詰められなければ身内で醜い争いを繰り返すだけの獣でしかない。

 だからこそ、人類の生命体としてのステージを上げなければならない――それこそがアレクシス・ワイセンベルクの抱く唯一無二の使命だった。


「アレクシス~、今回は私も好きに動いていいんだよねぇ?」


 とあるビルの屋上で会談の舞台となるホテルを一望しているアレクシスの周囲を、くるくると回りながらアンネリーゼが問う。


「ああ、我々の邪魔をしなければ好きに動いて構わない。だが、対象はあくまで会談関係者にのみに絞れ。前回みたいな近親者に手を出すことは自重しろ」

「もう何度も言わなくてもわかってるよぉ。私は秋雨にしか興味ないからねぇ」

「なら良いのだがな。今回は頂点捕食者である神木守玲香の他に、それなりの強者が揃っている。油断と慢心は己の足下をすくわれることになる。心してかかるのだな」


 アレクシスの小言に、アンネリーゼは「べ~」と舌を出す。

 そんな行動をする彼女であるが、アレクシスは気に留めるつもりは更々ない。


「暢気なものだよねぇ。何とかして国のお偉いさんたちは秋雨たちを制御したいんだろうけど、狙いの面々は従う気が更々ないみたいだしねぇ。あとは地球の頂点捕食者は別にして、他のみんなは来たる脅威に対して無関心――いや、気づいてないってところかなぁ?」

「気づいていないのではなく、まだ観測できていないだけの話だ。ふん、神木守玲香はいつまで黙っているつもりなのか」

「さぁ? ムカつく女だけど、実力だけは一級品。ううん、私よりも遥かに上だから、何か考えているんじゃないのぉ?」


 苦虫を噛み潰したかのように顔を顰め、アンネリーゼは言う。

 その表情から玲香に対して、随分と悪印象を抱いているようだった。しかし、素直にその実力を認めていることもあり、心境としては筆舌に尽くしがたいのかもしれない。


「神木守玲香については我々が相手をしよう。他の者たちはアンネリーゼと九十九に任せるぞ」

「はいはーい。ところで九十九の姿が見えないんだけどぉ、何処にいるのぉ?」

「奴は既に動き出している。神金守鈴音の従者として桜目律と桜目雪も会場入りしているようだからな」


 その言葉にアンネリーゼ「ふーん」と興味深そうに声を溢す。


「余程、その二人に対して個人的な執着があるのかなぁ? 一足先に私が手に掛けるのもアリかもぉ?」

「止めておけ。そのような行動を起こそうとした瞬間に、奴から命を刈り取られるぞ」

「……わかってるよぉ。私も秋雨以外に殺される気は毛頭ないからねぇ。だけど、今回の舞台は盛り上がりそうだよねぇ」


 口元を歪めながらアンネリーゼがホテルへと視線を向ける。


「各国の要人。異世界の王族と勇者。この世界の異能力者組織たち。そして、私たち他世界、或いは惑星の頂点捕食者。随分と豪華で刺激的な群像劇だよねぇ」


 世界が注目する東京会談。

 集まる数多の重要人物たちと人類の進化を促す頂点捕食者。

 それはアンネリーゼの言う通り、これ以上の豪華さと刺激さを並び揃えた舞台は存在しないだろう。

 アレクシスは静かに両目の瞼を下ろす。


「――我々の父にして母である旧き人類よ。汝らの生み出した新たな人類であった我々が試練を与えよう」


 その言葉には並々ならぬ重みがあった。

 アンネリーゼは目を細めながら、口元に手を当てながらクスクスと笑う。


「やる気満々だねぇ、アレクシス」

「……やる気の有無は関係のない話だ。我々としてやらねばならないことだからに他ならんのだ」

「ふーん。まあ、いいやぁ。私は私で動くとするねぇ」


 手を組んで大きく背伸びをするとアンネリーゼはビルから飛び降りようとする。


「時間までは我慢するから、心配は無用だよぉ」

「無論だ。では、な」

「ばいばーい」


 アンネリーゼはビルから飛び降りる。

 そんな様子をアレクシスは興味なさ気に見届け、再び会談の会場となるホテルへと視線を向けた。


「……人類の真価を問う時だ。真に人類が最も優れた生命体であると思うのならば、その意志と決意を持って示してほしいものだな」


 それはアレクシスの本音。

 そうであってほしい――という願望でもあった。

 今、世界は大きく変わろうとしている。

 数多くのイレギュラーが発生し、情勢が目まぐるしく変容している。

 これはアレクシスすら想定外の事態だった。

 何故ならば、アレクシスの知る過去(・・・・・・・・・・)には存在しないものがあったからだ


「異世界と五行神家の存在。そして、九十九と桜目律。これらは変数となり得るか?」


 その言葉を聞いたものは誰もいない。

 そして、その声音に微かな期待が籠っていたことを、アレクシス自身も気づいてはいなかった。

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