第56話
『会談の時間が刻一刻と迫ってきておりますが、各国の思惑はどのようなものがあるでしょうか?』
『まずは異世界ゾティークとの友好関係を築く狙いはあるでしょう。異世界から帰還した勇者である庄司奏多さんたちも手にしている魔法という未知の力。アメリカとしては軍事目的としても保有したいところでしょうか』
『なるほど。アメリカには日本の五行神家と同様の異能力組織である銃士協会がありますが、積極的に魔法を保有する意味はあるのでしょうか?』
『入っている情報では、アメリカ政府は銃士協会を制御することはできていないと見られます。これは日本政府と五行神家、イギリス政府と魔女会、フランス政府と十二勇士も同様のことが言えるでしょう』
多くの人々が東京会談の行く末に意識が割かれ、どのテレビ局でも特集を組んで報道されている。
そんなとあるテレビ局の報道を教室のテレビで流しながら、志乃たち異世界帰還者たちはそわそわとしていた。
「奏多から連絡は貰ってたけど、五行神家をはじめとした異能力組織たちの殆どは部屋に引き籠っているらしいわ。聞くところによると玉水と魔女会が何か話をしていたらしいけど……」
志乃は難しい顔をしながら言う。
テレビには志乃が話をした秋雨と魔女会三人との会話風景が流れている。
会話の内容までは取得できていないようだが、映像を見る限りは秋雨と魔女会との関係性は悪くなさそうであることだけわかる。
『こちらは五行神家の一角である神水守家の当主、神水守秋雨氏と魔女会所属のマーリン・アンブロシウス氏とアルトリウス・グラストンベリー氏、エリスティマ・クルセイダー氏の会話している映像です。どうやら初対面ではなさそうですが、これをどう見るべきでしょうか?』
『そうですね、エリスティマ・クルセイダー氏は神水守秋雨氏の通う高校へ転校生として入学しています。恐らく公になる前から顔見知りだったのでしょう。会話風景から関係性は互いに友好的と見るべきでしょう』
『ありがとうございます。五行神家と銃士協会との関係性は不明ですが、十二勇士との関係性はいかがでしょうか?』
『そうですね。少し前に博多駅で神水守秋雨氏と十二勇士の団長であるカルロス・マグヌス氏との小競り合いがあったことは、記憶に新しいところです。此処から考えられることは、決して良好な関係ではないということでしょうか』
テレビに映るコメンテーターが博多駅で起こった戦闘の映像を流している。
「この映像を見る限り、カルロス・マグヌスってヤツは随分と好戦的みたいね」
「流石は団長というだけはあるね。話には聞いていたけど、映像を見てしまうと凄まじい戦闘能力だ」
志乃の感想に、孝也は難しい表情を浮かべながら言う。
「この会談の結果によって、世界は大きく変わることが予想されますね」
顎に手を当てながら、美弥が言う。
各国の思惑が交錯する中で、唯我独尊を貫いている異能力組織。
美弥の予想として、少なくともアメリカは魔法の力を有して、銃士協会の制御を目論んでいると考えていた。
日本政府も五行神家の制御に苦慮している以上、異世界ゾティークの王族であるミルディールとの友好関係を築き、勇者である奏多と共に手中に治めたい思惑はあるだろう。
「それはそうですね。東雲先生としては異能力組織が各国の政府に歩み寄ると思いますか?」
孝也の問いに、美弥は少し考えた後に首を横に振る。
「恐らく五行神家をはじめとした異能力組織は、はじめから政府とまとまな話し合いをする気はないと思います。どちらかと言えば、他の異能力組織との連携に注力している可能性もありますね。頂点捕食者という驚異的な存在に対する協力――少なくとも五行神家と魔女会は手を取り合っていると見るべきです。また、十二勇士についても、テレビで報道されていた内容から鑑みれば、玉水君に興味を持っていることは間違いなさそうですからね」
「それって、十二勇士も五行神家と手を組みたいってこと?」
「それはわかりませんね。ですが、すべてが不明な銃士協会よりは友好的だと見ても差し支えないと思いますよ」
クラスメイトたちがその会話に耳を傾けている中で、報道にも動きがあった。
『会談の時間が迫ってきている中、カメラの前に五行神家の一角である神木守玲香氏が姿を現しました。その隣には神水守秋雨氏の姿もあります』
映像に映る二人の姿。
何やら会話をしているようだが、上機嫌そうな玲香に対して、秋雨はゲンナリとした表情を浮かべている。
玲香という人間性を知っている志乃と孝也は「あ~」と声を溢しながら、秋雨に同情を禁じ得ない。
『いったいどんな会話をしているのでしょうか?』
司会は興味津々にそんなことを言っている。
「玉水も大変ね。神木守さんって、良くも悪くも我が道を行く人だし」
「そうだね。今回の会談を荒らす存在だろうね」
二人のそんな評価を聞いた美弥が顔を引きつらせながら問う。
「そんなに凄い人なんですか?」
「凄いというか……ねえ、孝也」
「そうだね、志乃」
歯切れの悪い二人に美弥が首を傾げる。
「……結局、どんな人なんですか?」
その問いに二人は口を揃えて答えた。
「「生きる天災ですね」」




