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かくして秋雨は降る  作者: 霜月風炉
第三章
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第55話

 会談における五行神家の面々で主として話をするのは鈴音と紅蓮の二人。

 遥は場にいるだけに徹する気であり、玲香についてはそもそも余計なことを言いそうで論外。秋雨については場数が足りていないということで、後学のために見学が主となる。

 しかし、状況によっては秋雨が話をする可能性も考えられ、今回の東京会談には緊張しながら参加している。

 会場となっているホテル内には、厳重な警備と政府関係者たちが慌ただしく動き回っている。

 そんな中で秋雨はロビーで一人天井を仰ぎながら、気持ちを整えていた。

 他の当主である玲香たちは割り振られた自室に引き籠っている。


「シューウ、久しぶりだね」


 不意に声を掛けられ、秋雨は顔を向ける。


「久しぶりだな、アル。それと……マーリンさんも」

「ついでみたいな感じは少々気に食わないが、久しぶりじゃないか。元気そう――というのは無粋だったか。とにかくいろいろあったようだね」


 この数ヶ月で秋雨の身に起こった出来事を把握していたマーリンは、少しだけ気を使った言葉を秋雨へと掛ける。

 秋雨としても完全に割り切ったワケではないが、目まぐるしく変動していく状況に適応していくしかなかった節もあった。何よりも最近はカルロスと対峙したの答えを模索している。

 正直なところ、秋雨としてもいっぱいいっぱいではあるのだが、神水守の当主としての責任は全うしなければならない。


「マーリンが気を使ってる姿を初めて見たわ」


 心底驚いた様子でエリスティマはマーリンを見る。


「心外だね。私にも人の心は残っている――いや、大半の心はアルに向いているだけだね」

「……普段から他人にも向けてほしいわね」


 溜め息交じりに言うエリスティマ。

 そんな様子を横目に、秋雨はアルトリウスへと問う。


「しかし、アルたちがわざわざ来日してまで会談に参加するとは正直思ってなかったぞ。全部エリスティマにぶん投げると思ってた」

「あはは……それは僕もは兎も角、マーリンも一緒だから驚くよね。ただ、マーリンがね」


 困り顔でアルトリウスがマーリンへと視線を向ける。


「私たちが日本に来たのは単純明快で、あの憎き九十九のクソヤロウに一泡吹かせるためよ!」

「ま、そんなワケで会談には参加するけど、本筋は九十九へのリベンジってところかな」


 アルトリウスと九十九の因縁は、秋雨もエリスティマから詳細を聞いている。


「九十九を探すのか?」

「うーん、マーリンとしてはその方針だろうけど、正直時間はなさそうだよね」


 九十九へのリベンジとは言え、あくまでも東京会談がメインである。

 一応は魔女会として参加している以上、それなりの立場と威厳を見せつける必要がある。勿論、そのことはマーリンも重々承知しているので心配はいらないはずだ。

 九十九の動向については、神木守家と神金守家の黒子が探っているが、阿蘇からの足取りは掴めていない。


「それよりもシューウは今回の会談をどうみているかな?」

「どうみているかだって?」

「うん。異世界の存在が公となり、それに便乗する形で僕たちが表舞台にあがった。世界は大きな変革期を迎えたといってもいいだろうね。表舞台に上がって来た組織が何を考えているかは別にして、各国の政府は僕たちの力を指揮下に置きたいと思っているはずさ」


 アルトリウスは言う。

 それについては秋雨も薄々感じているところであった。

 実際に五行神家が公になった際も、日本政府は何とかして手中に収めようと動いていたらしい。

 しかし、玲香という地球最強生物がいたこともあり、その目論見は呆気なく瓦解してしまった。

 今回の東京会談は日本政府にとっても重要な催しであり、各国と足並みを揃えるために何らかのアクションを起こす可能性はあるだろう。

 まあ、それぞれのトップを政府要人たちが制御できるかは別の話ではあるのだが……。


「五行神家は――神木守さんがいるから問題ないだろうね。だけど、僕たちのような存在は一般人からすれば危険因子でしかない。何かしらの理由をつけて制圧に乗り出す可能性も否定できない」


 日本政府はそこまでの度胸はないだろうが、アメリカなど諸外国は別のはずだ。


「僕たちはイギリス政府と事を荒げるつもりはないけどね。知っての通り、僕の持つ聖剣と王室にはそれなりの関係がある。まだ、その事実を公にはしていないけど、面倒だと思ったら切り札として使うつもりさ」

「まあ、イギリス政府の政治家如きじゃ、私たちを制御することはできないだろうけどね」


 マーリンは鼻を鳴らしながら、アルトリウスの言葉の後に続けた。

 なお、そんな様子を見ていたエリスティマは「でしょうね」とゲンナリした表情でボヤいている。


「さて、各国の要人たちの思惑は正直どうでもいいかな。魔女会としては日本に集結している頂点捕食者についてを主とする予定だしね」


 マーリンはサラッとそんなことを言う。


「恐らく他の組織もそちらが主題となるはず。イギリスの赤の竜と白の竜の問題もあるけど、目下の脅威ではないからね。寧ろ、各国の政府は相手にされないまであるかもね。ああ、異世界ゾティークは別だろうけど」


 大きなあくびをしながら、マーリンは周囲に視線を巡らせる。


「こちらの話を盗み聞こうとしている輩がいるみたいだけど、頂点捕食者なんて意味もわからないでしょうね」

「それらの追及をされたら面倒じゃないの?」

「馬鹿だねぇ、エリスは。そんなの黙らせてしまえば良いのさ」


 そんなことを宣うマーリン。

 きっと玲香も同じことを言うんだろうな――と、遠い目をしてしまう。

 同時に荒れることが確定している会談を前に、秋雨は胃がキリキリと痛むのだった。

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