第52話
ずるずるとレアになされるがままに引き摺られながら、カルロスは口を開く。
「なあ、そろそろ自分で歩きたいんだけど? そろそろ周りから突き刺さる奇怪なものを見るような視線に耐えられないぜ」
「普段から同じ視線を向けられているのに、今更何を言っているのよ。そもそもアナタはそんなもの気にしない質でしょうに……」
溜め息交じりにレアは答えて立ち止まり、掴んでいた手をカルロスの首根っこから離す。
グエッ――というカエルが潰れた時のような鳴き声が響く。
「おいおい、責めて一言かけてから手を放してくれよ」
「黙りなさい。独断行動の上、公衆の面前でエキサイトしたことについて、どう申し開きする気かしら?」
怒り心頭の様子のレア。
しかし、その怒りを向けられているカルロスは飄々とした様子で立ち上がりながら、人差し指を振る。
「ちっちっち、この俺の辞書に反省という言葉は存在していないんだぜ。それに決して意味のない行動ではなかったと断言できるんだが?」
その行動に青筋を浮かべ、額に手を当てながら、レアは深い溜め息を吐く。
この男の思い付きのようにも思える行動は、今始まったことではない。
それでも十二勇士という組織を纏める団長であるのだから、それなりの理性を持ってほしいと一団員としてレアは思うわけである。
だが、それが無理であることは遺憾に思いながらもレアは理解していた。
カルロス・マグヌスという男の自由意思は何人たりとも阻害することはできない。
何故ならば、それが十二勇士に所属する際に彼が掲げたものだからだ。
「……はぁ、今更私もどうにかする気はありませんよ。ただ、ポーズだけでもしておかないと、示しがつかないでしょう?」
「はっはは、気苦労が絶えないな。ま、そんな君が副団長で俺は助かっているぞ!」
「私としてはアナタが団長のせいで助かっていませんけどね」
「褒めても何も出ないぜ!」
「褒めていませんが?」
高笑いをするカルロスへ、周囲からの視線が突き刺さる。
何だかんだ本人は微塵も気にしていないのだろうが、共に行動する者たちにとっては非常に恥ずかしい。
今となってはレアも慣れてしまったが、初めのうちは恥ずかしくて仕方なかった。
「――それで、収穫はあったの?」
レアは問う。
するとカルロスは「まあな」と短く答えたのち続ける。
「頂点捕食者と対峙して退けたとは聞いていたが、想定よりはやれるな」
先ほどまでのおちゃらけ具合は何処へやら、真面目な表情と声音でカルロスは言う。
「いろいろと足りないところはあるが、きっかけと踏ん切りさえなんとかなれば、大成するだろうな」
「へえ、アナタにしては高評価じゃないの?」
「まあ、な。俺が本気じゃなかったにしても、それなりに攻撃は捌けていた。周囲を気にするあまり、自身の力を使うことを渋っていたが……そこは今後のアイツ次第だろうよ」
「なるほど……流石は頂点捕食者である神木守玲香の弟子ってところかしら」
「だな。だけど、アイツも酷な役割を与えられたもんだ」
何やら意味深なことをカルロスが呟いたことで、レアは首を傾げる。
「酷な役割?」
「おっと口が滑ったか。なーに、今はまだ関係のない話だよ。そのうちわかることだ。サプライズとして座して待ってな」
ニヒルな笑みを浮かべて告げるカルロス。
レアとしては非常に気になることではあるが、カルロスがこの調子で言うことは口を割る気が微塵もないことを示していた。
「しかし、日本って場所は魑魅魍魎が跋扈する万国ビックリショー染みているな。頂点捕食者が揃い踏みとは、中々に痺れるもんだ」
「痺れるなんて言えるのは、アナタと、または同等以上の実力を持っている者たちだけですよ。神木守玲香の実力を知っている者からすれば、頂点捕食者は絶対に敵対したくない存在なんですよ」
「なーに湿気たこと言ってんだ? 強者がいるからこそ、強くなろうと努力をするんもんだぜ? 通説じゃ、『頂点捕食者は頂点捕食者でなければ倒すことはできない』なんて言っているが、アイツのように一矢報いることはできるもんだぜ」
「まあ、アナタが言うのなら納得はできますが、実行はできませんよ」
「はっはは、別に俺が神木守玲香に単身で挑んだようにしろなんて言わないさ。単独でダメなら友と共に挑めば良い。十二勇士の奴らは口では何だかんだ文句はいうだろうが、最終的には協力してくれると思うぜ」
「それは……アナタだからこそ協力するのだと思いますけどね」
疲れたようにレアは再び深い溜め息を吐く。
そんな様子に高笑いしながら、カルロスは言う。
「さて、舞台は東京。各国の強者の他にも、異世界人とも会えるって話だ。実にワクワクするじゃないか! はっはは!」
「嫌な予感がするのは私だけですかね……」
上機嫌なカルロスと何かが起こりそうな気がするレア。
対照的な二人は東京へと向かうのだった。




