第51話
ジョワユーズを剣鎧として纏ったカルロスの姿を前に、秋雨は背筋に冷や汗を流しながら立っていた。
十二勇士の持つ異能。風の噂程度には秋雨も耳にしていたが、その力を目にするのは初めてだった。
「さて、このまま俺にボコられるか? それとも本気を出すか? 選ぶといい」
「周りに一般人がいるんだぞ?」
「力の制御ができれば巻き込むこともない。君は自ら実力不足だと告白でもするのか?」
「そんなワケじゃ――」
瞬間、強烈なソニックブームと共にカルロスの姿が秋雨の目の前に現れる。
あまりにも早い。
「っ――⁉」
「モタモタしてんじゃないぜ!」
カルロスの拳が秋雨の腹に突き刺さる。
「カハッ――⁉」
腹の奥底、肺の中全ての空気を押し出され、秋雨はそのまま数メートル吹き飛ばされ、地を数度転がる。
痛みに悶えるワケにもいかず、フラフラしながらも秋雨は直ぐに立ち上がった。
「直ぐに立つ意思は称賛に値する。だが、それだけだ」
「アンタ! 少しは加減しなさいよ! アタシがいなかったら周りがボロボロよ!」
「わかっているさ。エリスティマがいなければ、こんなことはしないさ!」
「アンタねぇ~!」
ご立腹のエリスティマを適当にあしらいつつ、カルロスは秋雨へと言葉を投げかける。
「さて、君はまだ本気を出せないとでも言うか? まあ、それもいいだろう。君の出せる実力の範囲内で守れる者だけを守ると良い。だが、そんなんじゃ、いつか守りたい者を守れなくなると思うけどな」
そう言ったカルロスはガンガンと両手の拳を叩き合わせる。
――と、鎧の繋ぎ目すべてから虹色の光が零れ始める。
「さて、お遊びはここまでだ。君が断固としてその意思を貫くのなら、今ここで俺は持ち得る全力をお見せしようじゃないか」
次第に強くなる虹色の光と威圧感に、秋雨の喉の奥が乾いていく。
周囲の被害、置かれた状況、自身の意思――そのすべてがゴチャゴチャになっていく感覚が秋雨に襲う。
カルロスの言葉は脅しではない。
そして、秋雨自身が本気を出さなければ受け止めることはできないことは明白だった。
「行くぜ――」
「っ――限定解除!」
一瞬の迷いと共に秋雨は限定解除を行う。
そして――、
「万物の原初は水であり、その終わりもまた――」
相伝術式を発動しようとした時だった。
「はーい、お互いそこまでよ。これ以上の行動はご法度よ」
ガコン、という音共にカルロスが吹き飛ばされる。
突然の出来事に呆気にとられ、秋雨は相伝術式の発動を停止する。
「何だ?」
「はいはい、うちの団長が御免なさいね」
カルロスを吹き飛ばしたのは全身青色の鎧を纏った者――直ぐにその者は鎧を解除すると、そこに立っていたのは女性だった。
「レ、レア~、来るのが遅いわよ!」
「御免なさいね、エリスちゃん。これでも羽田から飛ばしてきたんだから勘弁して頂戴」
そう言ってウインクする女性――レア・エステは秋雨にも言葉を投げかける。
「神水守の当主君もうちの馬鹿が御免さないね」
「い、いえ……それよりも彼は大丈夫なんですか?」
「大丈夫大丈夫。伊達に十二勇士の団長を務めてるわけじゃないから。ほら、戻って来た」
レアのその言葉と共に、剣鎧を解除した状態でカルロスが走って戻って来る。
「おいおい、レア⁉ 流石に今のは本気蹴り過ぎじゃないか⁉」
「あのねぇ、それは街中でドンパチやり始めた団長が言うべき言葉じゃないわよ。そもそも、独断行動は控えるように散々言っていましたよね? 今回の行動然り、弁解があるのでしたらお聞きしますが?」
「はっはは……弁解は……ないです、はい」
シュンと小さくなるカルロスの首根っこを引っ掴み、レアは秋雨に再び顔を向ける。
「さて、今回は迷惑を掛けたわね。ま、うちの団長がいろいろ好き勝手言ったと思うけど、たぶん大きく外れてはいないと思うわ」
「それは……」
「ま、慌てて答えを出す必要はないと思うけど、考えておく必要はあるかもね。それじゃ、団長も回収できたし、私たちは行くわね。次は東京で会いましょう」
レアは爽やかな笑みを浮かべつつ、カルロスを引き摺りながら去って行く。
その後姿を見つめながら、秋雨は自身の拳を固く握りしめていた。




