第50話
周囲の人々の存在なんぞ気にすらせず、ジョワユーズを片手に秋雨へと切り掛かるカルロス。
氷刃刀で秋雨は剣撃を捌いていくが、剣技については圧倒的にカルロスの方が上手であった。
秋雨の身体に少しづつ掠り傷ができ、滲んだ血が着ている服を赤く染めていく。
見物していた人々も、これが模擬戦イベントでないことに気付いたのだろうか、次第にざわついてくる。
「カルロス! アンタ、何を考えているワケ⁉」
「愚問だぜ、エリスティマ! 俺は確かめているだけなのさ!」
「実力を試すにしてもTPOってヤツがあるでしょうがッ!」
「さあ、そんなものは初耳だな!」
カルロスの猛攻に防戦一方であった秋雨だが、このままではジリ貧であることは理解していた。
(小技の術じゃ、コイツには意味をなさないだろうな。だが、大規模な術は周囲の人を巻き込みかねない。なら――――)
バシャンという水の弾ける音と共に、カルロスの猛攻を受けていた秋雨の姿が掻き消える。
「ほう?」
感嘆の声を溢しつつ、カルロスはジョワユーズを振って自身の身体を回転させる。
ガキィンという音と共に、背後から迫っていた攻撃をカルロスはジョワユーズで攻撃を受け止める。
「なっ⁉」
「気配がバレバレだ。それじゃ俺相手には不意打ちにもなりはしないぞ!」
秋雨は数回後方へと跳び退き、悠然と佇むカルロスを見る。
「こんなことに何の意味があるんだ?」
呼吸を整えながら秋雨は問う。
秋雨にとって、この戦いに何の意味もない。
何よりもカルロスが発している殺気は本物であるが、振るうその剣筋には明確な殺意は乗っていない。
明らかに手を抜いて秋雨と対峙していることがありありとしていた。
だからこそ、秋雨はこの戦いの意味を問う。
「意味? 俺が君の実力を試したい。ただ、それだけのものさ。しかし、剣を交えて理解した」
カルロスは告げる。
「周囲を気にしているのかは知らないが、君は実に傲慢だよ」
やれやれと首を振りながらカルロスは断言する。
「君は理解しているはずだ。今のままでは俺を倒せないってことさ。本気を出せよ。俺は手を抜いて相手をできてしまう男じゃないぜ?」
その言葉に秋雨は悪罵を噛む。
限定解除からの相伝術式――それを発動すれば、カルロスを倒すこと容易かもしれない。
だが、それは周囲の被害を考えない場合。
カルロスなら回帰の概念に抗うこともできるだろうが、一般人はそういうワケにもいかない。
「――かぁあああ、ツマラネェ奴だな! エリスティマ、コイツが本当に五行神家の一角の当主なのか?」
心底つまらなそうな表情を浮かべながら、カルロスがエリスティマへ問う。
「正真正銘、神水守の当主よ。私、としては……アンタを抑えているだけでも、上出来だと思うんだけど?」
ゼーゼーと荒い呼吸をしながらエリスティマは答える。
ここまで秋雨とカルロスの衝突によって生じた余波を一人で捌いていたエリスティマは疲労困憊の様子だった。
「いやいや、そもそも俺は本気すら出してねぇんだぜ? 本気も出さない舐めプをしている俺が言うのもアレではあるが、俺に対して本気を出すこと渋っている割には弱過ぎる」
秋雨の実力に毒吐くカルロス。
「本気を出すと周囲に被害を出すからセーブでもしてるのか?」
「本機を出した結果、周囲を巻き込んで戦いに勝っても意味がないだろ」
秋雨の言葉に、カルロスは首を振る。
「ならば、尚のことダメだな。自身の力を制御することくらいできなければならない。君は巨悪によって破滅が迫っている時に、周囲を巻き込むから本気では戦えないなんて言うのか?」
カルロスは秋雨を真っ直ぐに見つめながら問う。
「それは……」
秋雨は言い返そうとするが言葉を詰まらせる。
その様子を見ていたカルロスは大きく溜め息を吐いた。
「ああ、ダメだ。君には覚悟が足りないように見える。うーん、頂点捕食者を退けたというから、どんなものかと思ったが拍子抜けだったか? まあ、周囲に被害を出したくないって考えは概ね同意できるけどな」
カルロスはそう言いながら、ジョワユーズを剣身を眼前に構える。
途端に周囲を取り巻く空気が急激に重くなる。
それを感じ、カルロスを見たエリスティマはギョッとする。
「ちょっとアンタ⁉ それはドが過ぎるんじゃないの⁉」
「はっはは! 本気を出す気がないのなら、無理やり引きずり出してやろうと思っただけさ!」
カルロスの周囲に虹色の光が奔り始める。
「これぞ、俺たち十二勇士の全力の姿――剣鎧だ」
虹色の光が鳴りを潜めた時、そこに立っていたのは白金の全身鎧を身に纏ったカルロスだった。




