第48話
巷の話題は、翌週に迫る異世界の王族と世界各国で活動する異能力組織による東京会談ばかりだった。
ワイドショーでは五行神家をはじめとした異能力集団には懐疑的な意見が大半であり、国家ですら制御できない存在に否定的な意見が飛び交っている。
日本国内においては五行神家について――特に神木守玲香の傍若無人ぶりには批判が相次いでいた。
だがしかし、そんな微風のような戯言を気にするような玉ではないのが玲香だ。
それこそ、街中で遭遇した過激派集団に自ら突っ込み、高笑いしながら制圧してしまう程度には本人は状況を楽しんでいる。
そんな玲香のせいで、秋雨は流れ弾を現在進行形で受けていた。
「国家転覆を考えている五行神家の人間は即刻逮捕されろ!」
エリスティマと博多駅を出たところにある広場で、そんなことを叫んでいる過激派集団に秋雨は囲まれていた。
心底ゲンナリとした表情を浮かべながら、秋雨は重苦しい溜め息を吐く。
一緒にいたことで巻き込まれたエリスティマの表情については、今直ぐにでもキレ散らかしそうになっているくらいには青筋が浮かんでいる。
「お前たちがいるから危険が増えているんだぞ!」
「責任を取れ!」
実に言いたい放題である。
近くにいる警察官も見て見ぬふり。
触らぬ神に祟りなし。暴力沙汰になれば介入するだろうが、現在は関わらないように気づかないふりなのだろう。
とは言え、大人数で囲まれると流石の秋雨も鬱陶しく思う。
「……五行神家に思うことがあるのはわかるけど、寄って集って根拠のない罵詈雑言はいい大人としてどうなんですかね?」
秋雨とエリスティマを囲む者たちは高齢者ばかり。
玲香のせいもあり、このような輩に対して秋雨も対処に慣れてきていた。寧ろ、言葉の節々が刺々しくなっているまである。
「黙れ化物! ワケの分からん力を振りかざして、そんなに楽しいか!」
「そうだそうだ!」
玲香なら無慈悲に速攻制圧なのだろうが、秋雨としては穏便に済ませたいところ。
だがしかし、秋雨の隣に立っているエリスティマが耐え切れずに爆発した。
「ああああああ! うるさいわね、クソ爺に、婆ども! 人の話を聞くこともせずに、大人数で囲んできて暴言ぶつけるなんてどういう了見かしら⁉
今この場でぶっ飛ばしてあげましょうか!」
全身から魔力を放出させながら、威嚇し始めるエリスティマ。
だが、取り囲んでいる過激派集団もヒートアップしていく。
「暴力か? やれるもんならやってみろよ!」
「こいつ阿蘇山の事件にいた女じゃないか?」
「本当だ! こいつも化物だ!」
ワーワー喚き始める集団。
警察はジッとこちらを見ているだけ。
秋雨は「どうしたもんか」と頭を抱えたくなった時だった。
「はっはは、実にクレイジーなお爺さんとお婆さんだ。傍から見ればあまりにも滑稽で醜いことこの上ない。そのような醜態をさらせる心意気には敬意を表したいね」
そんな声と共に、過激派集団を飛び越え、秋雨とエリスティマの目の前に着地したのは外国人の男。
その腰には日本では明らかに銃刀法違反となる剣が差されている。
秋雨は突然やって来た男に首を傾げていたが、エリスティマは口をあんぐりと開け、唖然としていた。
「誰だお前!」
過激派集団の中の誰かが怒鳴る。
すると男は両手を大きく広げて大声で答える。
「よくぞ聞いてくれた! 俺の名はカルロス・マグヌス。フランスの十二勇士に所属する聖剣使いさ! 好きな食べ物はリンゴで、嫌いな食べ物はバナナ。そして、この腰の件は俺の相棒である剣貴卿ジョワユーズだ!」
「紹介に賜ったジョワユーズだ。よろしく頼む」
周囲に一気に沈黙した。
カルロスの突然の自己紹介が衝撃的だったこともあったのだろうが、それ以上に腰に差してあった剣が言葉を発したことが衝撃的だったのだろう。
そんな沈黙を打ち破ったのはエリスティマだった。
「カルロスぅ⁉ 何でアンタが此処にいるのよ⁉」
「はっはは! 今日も元気で麗しいな、エリスティマ。思わず食べてしまいたいくらいだ」
「黙れ! 何度も言っているけど、アンタのそれはセクハラよ!」
「固いことを言うなよ! 俺と君との仲だろう?」
陽気に高らかに笑い声を上げるカルロスに、エリスティマは「あああああ!」と頭を掻きむしりながら地団太を踏んでいる。
と、我に返った過激派の一人が声を上げる。
「こいつも化物だぞ!」
しかし、カルロスが「ちっちっち」と人差し指を立てて、指を振る。
秋雨はそれを見て、少しだけイラっとした。
「化物? 俺と君は同じ二足歩行の人間さ。何よりもこの俺が化物だなんて悍ましい存在だとでも言うのかい? それはあまりにもナンセンス。そんなことを思わず口走ってしまうってことは、きっとカルシウムが足りていないのだろう! とりあえず毎日牛乳を飲むことを推奨しよう」
マシンガンのように言葉を発するカルロスに、過激派集団も圧倒されていく。
「牛乳といえば冷たいもの飲むのも良いが、俺は温めた方が好きだね。身体の芯から温まって気持ちがホッとするからね!」
段々と周囲から「何言ってんだコイツ」の空気が流れていく。
過激派集団も毒気が抜かれたのか、それとも面倒なヤツに絡まれたくないのか、少しづつフェードアウトしていく。
「とにかく罵詈雑言を吐いてしまうような者たちには、ゆとりが足りないのだ。故にお見せしよう! 俺の相棒の輝きを!」
カルロスが腰のジョワユーズを引き抜け、天へと掲げる。
「これぞ、俺の相棒である剣貴卿ジョワユーズの輝きよ!」
虹色の光を放ち始めるジョワユーズ。
その姿はどこかゲーミングデバイスを連想させる。
「はっはは! どうだ、これこそ俺が考える平和の象徴だ!」
高笑いするカルロスに冷たい視線を向けながら、秋雨はエリスティマに問う。
「アイツ、何なんだ?」
するとエリスティマは心底面倒臭そうな様子で答える。
「カルロス・マグヌス。あんなふざけた奴だけどフランスに根差している十二勇士の団長よ」
「――――へえ……マジか」
「……ええ、非常に不本意ながら大マジよ。アレでも実力は上澄みの中の上澄み――それこそ化物染みた強さを持っているのよねぇ」
虹色の輝きを放ち続けてハイテンションに演説を続けるカルロスを眺めながら、秋雨とエリスティマは同時に空を仰いだ。




