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かくして秋雨は降る  作者: 霜月風炉
第二章
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第41話

 限定解除における制限時間内にルクシャ・ハーナを倒せるか否か――秋雨は出し惜しみをせずに持てる全てを出し切るかの如く猛攻を仕掛ける。


 水之業・陽型――水天球。


 限定解除により制限を取っ払われた力の流入により、その水球の密度もこれまでの比にならないほどに詰まっている。

 だが、それだけでは足りない。

 秋雨は更に水天球を変型させる。


 水天球・変形――水串(みなぐし)(ごう)


 通常の水串は水球から数多の槍を伸ばし、多数の敵を貫いていた。

 対し、水串・剛はその水球を一本のに変型させ、その先端に全ての力を収束した。

 通常の水串が(スピア)であるなら、水串・剛は突撃槍(ランス)と表すのが適切と言えるだろうか。


「穿て! 水串・剛ッ!」


 水の突撃槍がルクシャ・ハーナへと向かって飛ぶ。

 飛来する水の突撃槍を、ルクシャ・ハーナは炎を纏った両腕で受け止める。

 白い蒸気と水が蒸発する音が響く中、秋雨は次の一手を繰り出す。


 バシャンと響く水の音。

 同時に秋雨の姿はルクシャ・ハーナの背後に在った。


 水之業・陰型――水鏡渡り。


「突撃槍を顕現させながらの別の力を行使するだと⁉」

「俺たちの術は魔法とは異なっていてな。オンオフについては俺の意思次第だが、魔法のように魔力を注ぎ続けなければ維持できないってものじゃないんだよ」


 ルクシャ・ハーナは水串・剛を受け止め続けている故に、動けない。

 絶好のチャンスだ。


「限定解除中だからこそ、行使できる術がある。使うのは初めてだが、頂点捕食者を討つにはこれしかない」


 アンネリーゼのように凍結させるのも手だった。

 しかし、それでは封印にも劣る先延ばしでしかない。

 ならば、確実にここでルクシャ・ハーナに倒せなくとも、痛手を与えるべきだ。


「――血の匂いがするな。そうか、鈴音さんも使ったか」


 その事実に、秋雨は口元を緩める。

 キッとルクシャ・ハーナの背中を睨みつけ、その術を行使する。


「行くぞ、これが俺の有するもうひとつの奥の手! さあ、その一身に受けろ! これは神水守家の血に刻まれた相伝だ!」


 秋雨の身体から更なる力の奔流が渦を巻いて立ち上る。


「万物の原初は水であり、その終わりもまた水に帰す」


 ルクシャ・ハーナの頭上に水天球とは比較にならない量の水が顕現する。

 更に異なるのはそれがただの水ではないこと。


「その身に原初の水を受け入れろ!」


 水之業・相伝術式――清水流転(せいすいるてん)万物始原(ばんぶつしげん)


 ルクシャ・ハーナの頭上にある水が弾けた。

 バケツを引っ繰り返した水のように、ルクシャ・ハーナに振りかかる。


「舐めるなよ、小僧!」


 その雄叫びと共にルクシャ・ハーナの全身に高温の炎が纏われる。

 迫る水を蒸発させ、耐え切ろうという考えだったのだろう。

 だが、これは相伝術式だ。

 清水流転・万物始原の水が炎に触れた瞬間、その炎が掻き消えた。


 火虚水乗。水剋火の力が相対的に強まり、すべての炎を完全に無力化した。


「ぐぉぉぉおおお⁉」


 身に纏っていた炎が消失したことで、水の突撃槍を受け止めることができずに腹へと突き刺さる。

 更に清水流転・万物始原の水がルクシャ・ハーナを飲み込んだ。

 秋雨は即座に水鏡渡りで退避し、両手を一度合わせパンと鳴らす。

 流れていく水はルクシャ・ハーナを包み込むように球体へと姿を変える。


「――――――――⁉」


 水の中でルクシャ・ハーナが悶えている。

 清水流転・万物始原の水の特性は対象を始原まで回帰させるもの。

 今、ルクシャ・ハーナの身体は巻き戻っている。


「――――――――!」


 何かの言葉を叫びながら、ルクシャ・ハーナが炎を出そうとする。

 だが、その炎はその身を包んでいる水が掻き消してしまう。


「――――――――」


 このままであれば秋雨の勝利だった。

 しかし、倒し切る前に制限が訪れてしまった。


「ぐぅぅ……」


 秋雨は膝を着く。

 同時にルクシャ・ハーナを包んでいた水が消滅する。


「くそ……」


 秋雨が毒吐く。

 が、それはルクシャ・ハーナも同じだった。


「こんなことで人間に……神水守の者に二度までも……」


 ルクシャ・ハーナの身体は完全に回帰できていなかった。

 だが、その身体はドロドロに溶け、一部は骨のようなものが垣間見えていた。

 それでも意識を保ち、生存しているのは頂点捕食者としての特性だろう。


「いいだろう。今は負けを認めよう……神水守の小僧」


 ルクシャ・ハーナはそう吐き捨てるように告げると共に、その足元に淡い光が放たれる。


「次は完全な状態(・・・・・)で相まみえよう。精々、牙を研いでおくことだな」


 光が収まった時にはルクシャ・ハーナの姿は無かった。

 秋雨は膝を着いたまま、荒い呼吸を整えながら、直ぐにでも屈してしまいそうな虚脱感に耐えながら呟く。


「まだ、足りないか……」


 それは自身の不甲斐なさを確かめるようなものだった。

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