第40話
「あら? 秋雨が限定解除を使ったね」
鈴音が口角を上げつつ、次々と下僕を殴り、捻り潰しながら言う。
さて、数多の下僕を相手にしている鈴音たちだが、その圧倒的な物量に苦戦を強いられていた。
辛うじてエリスティマの魔力砲で保っているが、その魔力も無限ではない。
「次から次へとゴキブリのようにウジャウジャ湧いてくるわね。幾ら魔力タンクと謳われているアタシでも、ちょっとキツイんだけど!」
そう言いながらもバンバン魔力砲を放つエリスティマ。
律も雪とツーマンセルを意識しながら、着実に討ち取っている。
「姉さん、まだいける?」
「問題ないですよ」
荒い呼吸をしながらも二人もまだまだ動ける状態。
とは言え、やはりそう長く持たないのも事実。
鈴音は秋雨が限定解除を使用したこともあり、少しだけご機嫌だった。
「エリスティマ、律、雪。一度こっちへ来て」
一番年下の当主が奥の手を使用したのだから、自身も切らねば無作法というものだ――鈴音は思う。
「言われた通りに来てやったけど、何か名案でもあるわけ?」
エリスティマが呼吸を整えながら問う。
そうしている間に律と雪もやって来る。
「鈴音さん、どうするんだ?」
「集まったところで何も変わらないと思うのですが……」
律と雪がそれぞれ言う。
「まあまあ、ちょっとしたお披露目をしようかなと思ってね」
そう言って術で金属のナイフを左手に作り出す。
「君たちはどうして五行神家の当主が強いかを知っているかな?」
唐突に鈴音は三人に問う。
「それは普通の術者よりも術の出力が大きいからではないのですか?」
「うん。確かに雪の答えも一理あるかな。だけど、出力だけなら青の色格である術者でも大きい者はそれなりにいる。それこそ、秋雨よりも出力が上の術者もね。だけど、秋雨は当主であり、それに対して血が遠い故に一部の反対派いても、その力を全否定はしていないんだよね」
鈴音は左手に持ったナイフの刃を右手首に当てる。
「五行神家の当主になる人間は、その家に伝わるとっておきの術を行使できるの」
周囲に下僕が群がり、鈴音たちへと向かってゆっくりと歩いてくる。
もう逃げ道は何処にもない。
「そして、それは脈々と血の中に刻まれ、子々孫々に受け継がれていくもの」
鈴音は手首に当てていたナイフに力を入れる。
「即ち、相伝の術。さて、君たちもよく見ておくといい」
ピッ――と、鈴音がナイフを思いっきり引くと同時に、右手首から血が周囲に散った。
「これは神金守家の相伝の術!」
ドクドクと右手首から流れ出る血が地へと流れ落ちていく。
しかし、流れ落ちただけでは終わらない。
その血は増幅し、地を真っ赤な海へと変え広がる。
「さあ、刮目するといい。これぞ、我が相伝! 仇為す者に鉄と血を持って知らしめようか!」
金之業・相伝術式―― 赤血鉄河・流血万象。
それは血に含まれる鉄分すべてを媒介とし、力を増幅させ、有利な状況を強制的に作りだす術。
そして、神金守家の血筋に脈々と受け継がれてきた相伝の術。
「ちょっと血流し過ぎじゃないの⁉」
「大丈夫よ、エリスティマ。少量……でもないけど、この血の海全部が私の身体から流れ出たものじゃないからね」
周囲に漂うのは生臭さのある血の匂い。
律と雪はその匂いと光景に顔を青くする。
「ま、正直嫌いな術ではあるのだけど、秋雨も切り札の一つを切った以上は、私もそれなりの動きを見せる必要があるからね」
総べての下僕の足下に血が触れた。
「――終わりだよ、下僕共」
鈴音の言葉と同時に下僕に触れていた血が槍となって天へと向かって突き上がった。
「この赤い血の範囲内は全て私の上下を問わず領域。たとえ上空や地下も関係なく射程となる」
一瞬だった。
たった一つ術によって、数多にいた下僕を鈴音は全滅させて見せた。
「さて、私のたちの仕事は終わりだね」
倒されたところで次々と下僕が顕現していくが、即座に血の槍によって下僕が串刺しにされていく。
「多少は疲れるし、貧血気味になるのだけど、これで秋雨にも報いることはできたかな?」
そんなのほほんとした様子の鈴音に、エリスティマは心底心地の悪い表情を浮かべながら言った。
「こんな趣味の悪いものを発動してケロッとしているなんて、本当にイカれてるんじゃないの⁉」




