第39話
氷刃刀を片手に、秋雨は駆ける。
下僕は鈴音やエリスティマ、律に雪が対応をしている。
秋雨はただルクシャ・ハーナを討つことだけを考えれば良い。
「格の違い見せてやろう」
両腕に炎を纏ったルクシャ・ハーナが秋雨へと迫る。
両者がぶつかり合う。
秋雨は氷刃刀を振るい、ルクシャ・ハーナは右の拳を突き出す。
触れ合った瞬間、氷と炎がぶつかり合い、白い水蒸気が立ち上がる。
常に氷の刃を保とうとする秋雨の氷刃刀と常に燃え続けるルクシャ・ハーナの拳と腕。
秋雨は押し負けていない。
が、力の差は歴然。今は何とか押し留めている。
「クソっ」
「この程度か? 神水守の小僧!」
バギャン――と、氷刃刀が砕かれる。
「――――っ!?」
秋雨は即座に氷刃刀を再構築する。
そして、更に一手を加える。
水之業・陽型――水天球。
秋雨の頭上に水球を創り出し、その水球をルクシャ・ハーナへとぶつける。
その見た目はただの水球であろうと、構成している水の質量は極限まで圧縮されている。
ルクシャ・ハーナへとぶつけ、その中に取り込みさえできれば、水球内の強烈な水圧で押し潰す――それが秋雨の算段だ。
「無駄だ」
迫る水球をルクシャ・ハーナは全身に炎を纏って一身に受け止める。
水が蒸発する音共に立ち昇る白い蒸気。
暫しの時間を持って、ルクシャ・ハーナは水天球を構成していた水全てを蒸発させ切った。
「この程度か神水守の小僧! あまりにも脆弱だ! その程度で頂点捕食者である我に届くとでも思ったか!」
「っ――――こっからだよ!」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら、秋雨は思考を巡らせる。
現状は秋雨の水とルクシャ・ハーナの火は相侮。所謂、逆相剋――火侮水の状態となっている。
これを何とかして相剋――水剋火の状態にしなければ、秋雨に勝ち目は薄い。
氷刃刀を水刃刀へ変化させ、秋雨はルクシャ・ハーナを睨む。
(アンネリーゼの時は周囲の助けと虚を突くことで何とか退けた。だが、今回は俺一人で頂点捕食者を相手にする必要がある。生半可な術は忽ち蒸発させられる。となれば――――)
水刃刀へ更に力を籠める。
炎を消化するほどの力――水を強くし、火を克し過ぎ、火を完全に消火する。
成すべきことは相乗――水乗火だ。
「その程度の意思で、我が炎を掻き消せるとでも思ったか!」
ルクシャ・ハーナが炎を纏った腕を伸ばす。
秋雨はツーステップで後退し、横一文字に水刃刀を振るった。
水之業・陽型――飛翔一文字。
水刃刀を振るった軌跡が一文字の水刃となってルクシャ・ハーナへと飛ぶ。
が、その一文字は炎を纏った腕により払われ、蒸発した。
(……ダメだ。普通に戦っているだけじゃ勝負にならない)
秋雨は奥歯を噛む。
(――――あとは奥の手を行使するか。だが、制限は五分。その間に倒し切れば良いが、できなかった場合は動けなくなる)
秋雨には奥の手がある。
それは秋雨だけではなく、五行神家の有するもの。
玲香や遥、鈴音であれば、十分を維持できる。
しかし、その技術を最近習得したばかりの秋雨には五分が限界だ。
「小競り合いも飽いたな。我が火炎を持って灰燼に帰すが良い!」
ルクシャ・ハーナの頭上に逆巻く炎の渦が立ち上がる。
(迷っている暇はない。此処で切る!)
「終わりだ、神水守の小僧!」
炎の渦が頭上から一気に降り立ち、秋雨を飲み込んだ。
一秒、二秒、三秒――ただの人間であれば一秒足らずで骨すらも残らず灰になるであろう火力。
それが五秒を過ぎた。
ルクシャ・ハーナは勝ちを確信した。
「つまらぬ、幕切れだったな」
吐き捨てるようにルクシャ・ハーナが言った時だった。
「――終わってねぇぞ!」
その言葉と共に炎の渦を掻き消し、秋雨の姿が現れる。
秋雨の黒い瞳が青白く光り、その身から揺らぐ力の奔流が可視化されている。
「ほう?」
ルクシャ・ハーナが感心したような声を溢す。
「限定解除」
本来は使用する量だけの力を使い術を行使している。
限定解除――それはその制限を全て取っ払い、垂れ流した状態で術を行使することができる状態。
メリットは限界を超えた力を行使できること。
対し、デメリットは制限時間を過ぎると術の行使ができなくなる。所謂、ガス欠の状態となってしまうこと。
秋雨はルクシャ・ハーナを睨みつけながら口を開く。
それに対して、ルクシャ・ハーナは好戦的な表情を浮かべて答える。
「五分以内に終わらせる」
「ほう、やってみると良い小僧!」




