第38話
生命体としての強度――それは何度か聞いた台詞でもあった。
ルクシャ・ハーナの言葉をどこまで信用するのかという問題はあれど、簡単に切り捨てるには些か問題があった。
「実に滑稽だ。これが先の戦いでは我の統治を受け入れず、自由を優先した結果とはな」
「アナタの言い分を無碍に切り捨てるつもりはないよ。ただ、一度侵略を仕掛けていた事実がある以上、信用するわけにもいかないだけ」
「くだらぬな。我の統治を受け入れることによって、この地球は人類としての強度が上がるというのに……。嘗ての五行神家も同様のことを宣った。特に神水守の人間だ」
鈴音の言葉を切り捨てる。
その後、ルクシャ・ハーナは秋雨へと視線を向ける。
「貴様はあの時の神水守の人間と似ている。普遍的な日々を願い、人類としての昇格を受け入れなかったあの男と同じ目をしている」
ルクシャ・ハーナの言葉に熱が籠もっていく。
「思い出すだけでも忌々しい。奴とこの地球の頂点捕食者さえ、存在しなければ我の手によって統治できたはずだったのだ」
ルクシャ・ハーナの両腕に蒼白い炎が纏わる。
途端に周囲の気温が上昇していく。
「さあ、我が民たちよ! 再び、我が覇道を切開こうではないか!」
「――いや、それは認められないな」
召喚されたレプティリアンへの下知を遮るように、秋雨が静かに告げた。
ルクシャ・ハーナが訝しげに秋雨へと視線を向ける。
「神水守の小僧よ、今なんと言った?」
「認められないと言った。この地球は俺たちの世界だ。異世界からやって来た奴に統治される筋合いはない」
「我の話は聞いていたはずだ。来たる脅威に対抗するには我の統治を受け入れるべきだ。それを拒むと言うのか?」
ルクシャ・ハーナから放たれる圧が増す。
纏う蒼白い炎の熱が上昇し、周囲の気温も上がり続け、空気が歪む。
「ああ、俺は何でもない日常を守るために神水守の当主になった。俺が弱いばかりに守れなかったものもあった。だが――今ある日常を壊そうとするのなら、俺はお前に抗うぞ。ルクシャ・ハーナ」
氷刃刀の切っ先をルクシャ・ハーナへと突き出し、秋雨は啖呵を切ってみせる。
もうこれ以上は失わないために、秋雨は正面から対峙する。
「それもそうだね。現代の頂点捕食者である玲香がどう思っているかは知らないけど、余所者に統治されるのは勘弁かな」
「アタシは五行神家の人間じゃないけど、完全に同意ね。そもそも世界を越えてまでやって来るなんて、マーリン以上の身勝手さじゃない」
鈴音とエリスティマが秋雨に同調する。
と、倒れていた術者を迅速に運び終えた律と雪も戦場に加わる。
「ワケがわからねぇことばっかり起こっているが、今回だけはシンプルだ。侵略者に迎合する気は俺もないぞ」
「私としても知らない方に統治されるのは気分が良くないですね」
それぞれの言葉を耳にし、ルクシャ・ハーナの顔に青筋が浮かぶ。
「やはりその本質は変わっていないようだ、五行神家!」
ルクシャ・ハーナの雄叫びと共に地響きが鳴る。
召喚された下僕たちの背に翼が生え、一斉に飛び上がっていく。
「良いだろう。あくまでも敵対するというのなら存分に相手をしようではないか。特に神水守の小僧。貴様は我が手によって粛清する!」
「上等!」
秋雨の言葉に呼応するように鈴音、エリスティマ、律、雪が頷く。
「秋雨、私たちは下僕を相手にする。頂点捕食者ルクシャ・ハーナの相手は頼めるかな?」
「はい。アイツ自身も神水守を目の敵にしている節があります。俺以外に務まらないでしょう?」
秋雨の言葉に鈴音が微笑む。
「秋雨以外は下僕を討とうか!」
鈴音の言葉と共にそれぞれが散開する。
そして、秋雨とルクシャ・ハーナが互いに睨み合う。
「生意気な。頂点捕食者でない貴様に何ができる?」
ルクシャ・ハーナのその言葉に秋雨は首を横に振る。
「舐めるなよ。ただの人間が頂点捕食者に届かない通りはないんだよ」
秋雨は宣言する。
この場に地球の頂点捕食者である玲香はいない。
アンネリーゼに一矢報いたように、『頂点捕食者には頂点捕食者でしか対抗できない』という固定観念を踏破しなければならない。
ただの人間として、頂点捕食者を討つ。
「――行くぞ!」
秋雨は自身に言い聞かせるように、声を張り上げて叫び、ルクシャ・ハーナへと駆け始めた。




