第36話
エリスティマの放った魔力砲に飲み込まれた九十九。
余波によって舞い上がった粉塵によってその姿がどうなったかは見えない。
トン――と、秋雨の隣にエリスティマが着地する。
「不死だか何だか知らないけど、全身ぶっ飛ばせば流石にいけるでしょ!」
そんな台詞を吐くエリスティマの脳筋的発言。
魔力砲に飲まれる直前に九十九が吐き捨てるように言っていた「……魔力放出だけのゴリラめ」に、敵ながら秋雨としては同感だった。
と、砂塵が一気に吹き飛ばされ、その全容が明らかとなる。
「九十九君、流石に今のは危なかったんじゃないのぉ?」
「愚問だな。別に死ぬことはない」
そこには無傷で立つ九十九といつ割り込んだのかアンネリーゼの姿が在った。
ギリッと秋雨が奥歯を嚙む。
「やっほー、愛しの秋雨。元気だったぁ?」
ニコニコしながら手を振るアンネリーゼ。
秋雨は目つきを鋭くし、睨みつける。
「何でお前が此処にいる、アンネリーゼ」
「うーん、杞憂だったんだけど、九十九君が危なそうだったからぁ? あとは仕事を終えたからかなぁ?」
役目を終えた――その言葉に秋雨をはじめ、この場にいた者たちが眉を顰めた。
確かに九十九も下僕が増えているのはアンネリーゼの仕業的なことを言っていたはずだ。
そして、アンネリーゼの「仕事を終えた」という言葉が意味することは……。
「気になる? 気になるよねぇ? だけど教えてあげないかなぁ」
煽るような言葉を息をするように吐くアンネリーゼに、エリスティマが物凄い形相を浮かべていた。
「何あの女。性格が悪過ぎじゃない⁉」
「……君は誰かなぁ? 初対面の癖に失礼じゃないのぉ?」
ゴミを見るような目でエリスティマを見るアンネリーゼ。
と、九十九が口を開く。
「口を慎め、アンネリーゼ。だが、今回はここまでか」
九十九は律と雪をそれぞれに顔を向ける。
「桜目律、次の邂逅に期待するとしよう。そして――」
フルフェイスの仮面もあり、九十九の表情は伺い知れない。
だが、雪の方へジッと顔を向け、九十九は問いを投げかけた。
「はじまりの魔女、桜目雪。今、幸せか?」
その問いに雪は勿論、律も目を丸くした。
「え?」
「…………その表情を見ることができただけでも収穫か」
雪の困惑の声を無視し、九十九はそう言って背を向ける。
「行くぞ、アンネリーゼ」
「え~、私としては秋雨と遊びたんだけどぉ?」
「また凍らされたいのか?」
「うーん、それも愛ならありかなぁ?」
「狂っているな」
去ろうとする九十九。
だが、それを制止するように、鈴音がその背に言葉を投げかける。
「逃げる気?」
九十九は立ち止まり、振り返ることなく答える。
「逃げる? 戯言だ。この場の主役は私でも、アンネリーゼでもなくなっただけに過ぎない」
九十九の目の前に裂け目が現れる。
「ばいばーい。秋雨、次は全力で殺し合おうねぇ」
ニコニコしつつ手を振りながら裂け目へと消えていくアンネリーゼ。
そして、九十九もその裂け目へと足を踏み入れる。
「さあ、目覚めの時だ。異世界ゾティークの頂点捕食者。名を――ルクシャ・ハーナ」
九十九のその言葉と共に、空気が震えた。
地響きと共に、火口から天高く火柱が上がる。
火柱は十数秒上り続け、次第に細くなる。
そして、火柱が消え、その中から現れたのは竜の翼と尾を持つ人型の存在。
その表情は憤怒に染まり、周囲に強烈な威圧感を与えている。
「さて、この試練を乗り切ることができるか見させてもらおう」
九十九も裂け目の中に消えた。同時に裂け目も消失する。
「ちょっとヤバいの現れてるわよ⁉」
エリスティマが叫ぶ。
鈴音の表情は強張り、額に汗を滲ませていた。
律と雪については言わずもがな。
秋雨もその威圧感に顔を顰めていた。
「――憎き五行神家」
ルクシャ・ハーナが翼を羽ばたかせ、嵐を巻き起こす。
「我が身を封印した怨敵」
その蛇のような相貌が秋雨と鈴音を捉えた。
「その血を持って、我の復活の狼煙を上げよう!」
その雄叫びが天を轟かせ、空を流れていた雲を吹き飛ばす。
荒れ狂う風と威圧感。
「鈴音さん!」
「わかってるよ。逃げ道はないからね。腹括ろうか」
秋雨と鈴音の二人が態勢を整える。
遅れてエリスティマも手に持った杖の先端をルクシャ・ハーナへと向ける。
「アタシも付き合うわ。て言うよりも逃げれなさそうだし」
律と雪も恐怖を押し殺し、立つ。
「俺もやってやる」
「私も行けます」
全員の言葉を聞き届け、鈴音が頷く。
「律と雪は倒れている神金守家の術者を安全圏まで退避させて。その間は私と秋雨、エリスティマで迎え撃つよ!」




