第35話
九十九が大鎌を構え、地を蹴った。
一気に秋雨との距離を詰め、大鎌を振りかぶる。
秋雨は水刃刀を構え、受け流すために術を行使する。
氷之業・陽型――氷刃刀。
水の刃は瞬く間に凍てつき、刃は氷と成る。
九十九によって振り下ろされた大鎌を、秋雨はその氷の刃で受け、逸らした。
ガリガリという音と共に、氷が削れる。
「神水守さん!?」
「桜目弟、一旦離れろ!」
秋雨が声を張り上げる中、九十九の背後を鈴音が取る。
黒鉄の腕を九十九の背へと打ち込む。
金之業・陽型――金剛鉄波。
打ち込んだ拳から鉄の破片を混じえた波動が迸る。
それは背をズタズタする一撃。
そして、それは明らかな致命となるものだった。
そのままバキリという鈍い音と共に凍てついた地を数度転がり、九十九は動かなくなった。
「流石にこれで生きてことはないかな?」
確実に仕留めた感触を得た鈴音が言う。
しかし、それは勘違いだった。
「――普通なら死んでいただろう。だが、私は死ぬことはないのだよ」
それは九十九に刻まれた不死の願い。
例え粉微塵に爆散しようとも肉片の一欠片から再生する超常の魔法。
「 常在魔法――死が運命をわかつまで。これははじまりの魔女が私の魂に刻んだ不死性を体現する魔法だ」
九十九はそう言いながら、ゆっくりと立ち上がる。
「……流石は頂点捕食者というところかな?」
「私はこの世界において確かに頂点捕食者と呼ばれる存在だ。しかし、それは仕方なくその枠の中に組み込まれただけに過ぎない」
大鎌を構え、九十九は告げる。
「私は運良くこの世界に辿り着いてしまった残り火だ。故に、私を越えた桜目律が紡いだ世界を見届ける必要があるのだ」
それは要領を得ない言葉だった。
名を呼ばれた律は勿論、誰にも意味が理解できない。
ただ、九十九だけがすべてを知り、理解しているだけのものだった。
「貴方は何者なんですか?」
雪が九十九へと問う。
少しの沈黙の後、九十九は言葉を紡ぐ。
「……九十九回目を迎えたとある一人の男だ。そして、百回目に全てを託した男でもある」
やはり要領を得ない言葉。
問いを投げかけた雪も困惑の表情を隠しきれないでいた。
「さて、桜目律。いつまで守られてばかりでいる?」
九十九が律の方へ顔を向けながら問う。
「私の知るお前は守られ続ける者ではなかったはずだ」
「……俺の何を知っているんだ、アンタは?」
「全てを知っている。誰よりも桜目律という人間を理解していると言っても過言ではないだろう」
九十九は大鎌を構えながら答える。
フルフェイスの仮面越しでも感じられる眼差しに、律は背筋に嫌な悪寒を覚えた。
「平和な世界に溺れたか? 或いは迎えた可能性が失敗だったか?」
立つ霜柱を踏み砕きながら、九十九は律へと向かって歩いていく。
その身から発せられる妙な威圧感に、理解はできないが律以外の者は動くことができなかった。
「さあ、答えてもらおう、桜目律。お前はこの世界で何を成すために戦う? 私はその芯を問おう」
「アンタ、本当に何を言っているんだよ? 俺は――」
言葉の途中で、九十九が大鎌で律の左腕を斬り落とした。
「――――ッ゙!?」
「律!?」
律のうめき声と雪の悲鳴に似た声。
と、硬直が解けた秋雨と鈴音が左右から九十九を挟み撃ちを仕掛ける。
九十九はその攻撃を回避せず、全てを一身に受ける。
「なっ……!?」
「まさか不死性を盾に避けることもないの!?」
「神水守秋雨。神金守鈴音。お前たちは確かに強いのだろう。だが、私を殺せるのは私だけだ!」
大鎌を円を描くように振り回す。
秋雨と鈴音は回避するために大きく後方へと跳ぶ。
「それによく見るといい。桜目律には何ら問題もない」
斬られたはずの律の腕がゆっくりながらも肉が泡立つように再生していく。
「分かりきっていたことではあるが、本来ならば私の攻撃を受けて再生はしない。だが、残り火である私の攻撃では再生を遅らせはできても、不死性の突破はやはりできないようだ」
九十九は律の再生を分かっていたかのように言った。
律の身に起こった異常が何であるのか――それは本人すら理解できていない。
「アンタは俺の何を知っているんだよ?」
律は再び問う。
「答える義理はないな」
「なら、答えさせてやれば良いんでしょ!」
九十九の頭上から響く声。
「あの時の嫌味に利子をつけてキッチリ返してやるわ!」
エリスティマが全力全力の魔力砲を九十九へと向かって放つ。
「……魔力放出するだけのゴリラめ」
その言葉と共に九十九はエリスティマの放った魔力砲に飲み込まれた。




