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かくして秋雨は降る  作者: 霜月風炉
第二章
34/66

第34話

「あああああ! なーにがパトロールついでに観光よ⁉ 観光なんて言っている場合じゃないわよ!」


 次々と現れる下僕を魔力砲をぶっ放しながら、怒りの声を上げるエリスティマ。

 神金守家の術者が対抗しているという話だったが、明らかに間に合っていない雰囲気が漂っている。

 火山活動の影響なのか、或いは別の要因があるのか――それを秋雨たちが知る術はない。

 とにかく火口に近づけば近づくほどに下僕の数が増えてくる。


「鈴音さん、流石にこれは多過ぎじゃないですか!」


 水鏡渡りで下僕の背後を取りつつ、水刃刀で切り伏せながら、秋雨は鈴音に苦言を呈す。

 周囲に神金守家の術者もいるが、討伐に手古摺っている。

 下僕の強度が段々と増しているようで、秋雨、鈴音、エリスティマを除いた術者では一人一体の討伐も難しくなってきている。


「確かに多いね。ちょっと気になるかな」


 右腕を黒鉄に変質させ、数多の下僕をぶん殴りながら鈴音は答える。


 金之業・陰型――黒鉄之腕(くろがねのかいな)


 腕を黒鉄に変えるシンプルな技であるが、攻防においては取り回し易い術。

 使用者の力量により硬度が変質する術であるため、強者であればあるほど好んで使用する術でもある。


「姉さん、怪我はないか?」

「私は大丈夫。律は問題ない?」

「ああ、俺は問題ない――ぞ⁉」


 背中合わせで互いに確認をしている最中、二人の足元から下僕の腕が生えてきた。

 律と雪は飛び退くように散開する。


「キリがない」


 律は両腕を黒鉄に変質させ、襲い来る下僕をぶん殴る。

 雪は周囲に回転しながら浮遊する刃を縦横無尽に飛ばしながら、下僕を対処していた。


 金之業・陽型――金剛飛刃(こんごうひじん)


 飛ばした刃で下僕の足を斬り落とし、動けなくなっているところをエリスティマが特大の魔力砲で一気に蒸発させる。


「ああああ! 鬱陶しい! シューウ! もうぶっ飛ばして良いわよね!」

「馬鹿を言ってるんじゃない! お前が全力全開で魔力砲を撃ってみろ、阿蘇山が吹っ飛んで大惨事の未来しか見えないぞ!」


 水之業・陽型――水天球、玉串。


 秋雨の頭上に作り出した水球から数多の水の槍が伸び、次々と下僕を貫く。

 だが、下僕は加速度的に討伐数以上に増えていく。

 流石にこれはあまりにも異常だ。


「鈴音さん! このあたり一帯を凍結させます!」


 秋雨は全員に聞こえるように叫び、氷之業の発動準備を整える。

 一帯を完全凍結させ、一掃しようという魂胆だ。

 自然環境に悪影響を及ぼし兼ねないが、エリスティマの全力全開魔力砲を撃たれるよりはマシである。

 しかし、秋雨は氷之業を発動することはなかった。


「これは太陽(きぼう)を願っても尚、叶うことのなかった悲しみの象徴。さあ、悲哀と嘆きを響かせ、此処にその意思があることを示そう。眠りにつく者よ。太陽に焦がれた者よ。いつか訪れる冬の終わりを棺桶の中より願うと良い。これより吹き荒ぶはあらゆる事象を停止する絶対零度の息吹なり」


 突如、響いた男の声。

 同時に秋雨たちの足元に霜柱が立ち始める。

 吐く息は白くなり、残暑の温度は冷気によって上塗りされた。


 ガサリと一つの影が秋雨たちの前に降り立つ。


 黒いフルフェイスの仮面を装着した黒尽くめの男――九十九。


「凍てつけ――事象停止の零点ニブルヘイム・コフィン


 下僕だけが一瞬にして凍りついた。

 そして、九十九がパンと一拍を打ち鳴らす。

 と、凍りついた下僕が砂のような氷となって崩れ落ちた。

 冷気は停滞し、気温は低いまま。

 その場に沈黙だけが漂っていた。

 そんな中で初めに口を開いたのは律だった。


「アンタは……何だ?」


 律の表情は困惑だった。

 妙な親近感と言いようのない違和感が律を支配していた。

 九十九は律の方へ視線を向け、言葉を発した。


「これが今の桜目律か。実に嘆かわしい限りだ」


 瞬間、律の眼前に九十九が移動していた。


「――――⁉」


 律は反応できなかった。

 が、その間へ水の音と共に割り込む影があった。


 水之業・陰型――水鏡渡り。

 水之業・陽型――水刃刀。


 秋雨が即座に動き、律と九十九の間へと飛び込む。そして、そのまま攻撃へ転じた。

 しかし、九十九はその攻撃をバックステップで難なく回避し、数回後方へと跳んで距離をとった。


「神水守秋雨か。なるほど、アンネリーゼが執着するのも頷ける」


 感心した声音の九十九。

 そして、アンネリーゼの名前が出たことで秋雨は眉間に皺を寄せる。


「お前……アンネリーゼの仲間か?」

「さて、どうだろうな。今は利害の一致で行動を共にしているに過ぎない。私には私の目的があるからな。まあ、この下僕どもについてはアンネリーゼの仕業ではあるだろうがな」


 そう言って、九十九はある方向へ顔を向ける。

 その方向は阿蘇山の火口がある方向だった。


「……あっちで何かやっているのかな?」

「神金守鈴音か。そうだな。今頃、アンネリーゼがルクシャ・ハーナの封印解除を行っている頃だろう」

「なるほど、この異常な下僕の数はそういうことね」


 鈴音が隙を伺い動こうとするが、九十九が制止する。


「下手に動かないことだ。私の役割は陽動――とは言ってもネタバラシをしている以上は足止めと言うべきか。とにかく、ここから火口へ行かせるわけにはいかないのだよ」


 そう言った瞬間、九十九から強烈な殺気が吹き上がる。

 周囲にいた神金守家の術者がバタバタと気を失っていく。


「さて、倒れなかった強者とはじまりの魔女(シネンシス)になることのなかった桜目雪。そして、桜目律よ。私にその力を見せてみろ」


 九十九が身の丈ほどの赤黒い大鎌を顕現させる。


「何を言ってるんだ⁉」


 秋雨が困惑の声を上げる。

 だが、九十九は止まらない。


「いずれ訪れる真の脅威に対抗できるか否かを見定めさせてもらおう」

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