第21話
頂点捕食者。
それは世界、或いは惑星に産み落とされた最終兵器。人間の身体の中にある白血球的な役割を有し、外敵を排除する為の免疫機能と言っても過言ではない。
そして、それぞれの頂点捕食者は、その世界由来、或いはその身に適した権能を手にする。
玲香が有する権能は『八百万神』。
対し、アンネリーゼの有する権能は『千匹の仔を孕みし森の黒山羊』。
互いにその身に刻まれた由来と適するものが反映された権能。
玲香は地を蹴り跳躍する。そして、周囲に咲く野花を武器にする。
木之業・陽型――砲戦花。
その野花の全てが銃火器染みた様相に変容し、弾丸となった種子がアンネリーゼへ向かって一斉照射される。
が、狙われたアンネリーゼは黒い雲にその弾丸の全てを喰らわせる。
「行っちゃってぇ、ナグ、イェブ!」
黒い雲の中から二つの影が玲香へと向かう。
その姿については確かにある。だが、視認できない。
「面倒ね!」
二つの影が触れるとマズい存在であることは、直感で玲香は判断した。
「建御名方神」
瞬きの間に二つの影を両断する。
日本神話における僅かな時だけ顕現した軍神による大切断により、二つの影は消失する。
「これも一瞬なのぉ⁉」
「舐め過ぎよ、小娘」
地に手を当て、アンネリーゼに狙いを定める。
木之業・陽型――死ノ小林檎。
アンネリーゼの足元から一本の木が突き上げるように生える。
「あっぶなぁい!」
アンネリーゼが飛び退くように回避するが、僅かに枝が皮膚を掠った。
「っ――⁉」
アンネリーゼが膝を着く。
掠った傷口から一気に皮膚が爛れ始める。
「――毒かぁ⁉」
「ええ。実在するマンチールって木を術で再現したの。毒性については元と比べられないくらいには強力よ。身体が別れても超再生で意味がないなら、毒で痛めつける――名案だと思わない?」
顔を歪ませ、アンネリーゼが玲香を睨みつける。
そこに余裕は無い。
対し、玲香は初めから今まで大きな変化はない。
「アンタの権能は触れたらほぼ終わりなのは理解したわ。だったら、触れなければ良いだけ。どうもアンタは戦闘慣れはしてなさそうね? ま、今まで格下と戦ったことしかないって感じかしら? 同格以上との戦い方を知らないよいうに見えるわ」
「…………その言い方だと、私が君より同格か、格下って言ってるみたいなんだけどぉ?」
「ええ、そう言ったつもりなのだけどわからなかったかしら?」
さっぱりと言い切る玲香。
その言葉に初めて怒りの表情を浮かべるアンネリーゼ。
「君って……本当にムカつくなぁ⁉」
アンネリーゼの周囲を漂っていた黒い雲から何かが這い出す。
それは泡立つ雲のような肉塊の身体に、のたうつ黒い触手と黒い蹄の短い脚、そして黒い山羊の頭を持った異業の何かだった。
「我が権能、我が母、我が信仰の主――御身の名はシューブ=ニググラトス」
空気が震え、大地が腐る。
直視すれば瞬く間に人間性は朽ち果て、廃人となりかねない狂気がそこに在った。
玲香は眉間に皺を寄せながら叫ぶ。
「化物を気軽に出してんじゃないわよ!」
「これは神なんだよぉ!」
「随分と狂った神様なことね!」
木之業・陽型――木枝槍。
アンネリーゼが召喚したシューブ=ニググラトスへ向かって、玲香は術を打ち込む、
だが、直撃直前で腐り朽ちた。
「どぉ? これなら君にも対処できないでしょ?」
「…………確かに対処には苦心しそうね。だけど、別に化物を倒す必要はないのよね」
玲香はニヒルな笑みを浮かべながら言い放つ。
そんな様子にアンネリーゼは眉を顰める。
「何が言いたいのぉ?」
首を傾げるアンネリーゼに、玲香は鼻で笑いながら告げる。
「アンタを倒すのは私の仕事じゃないってことよ」
玲香が何を言いたいのか――アンネリーゼには理解ができなかった。
しかし、それを理解しようとしたことに思考を割き、尚且つ玲香という強者が目の前にいた事実。
「さあ、アンタの死神がやって来たわよ?」
「はぁ?」
玲香の言葉に怪訝な声を上げたアンネリーゼの背に強烈な痛みが奔った。
「――――」
水之業・陽型――水天球・変形、水轟砲。
水の球体を圧縮に圧縮を重ね、一発の水の弾丸として打ち出す術。
その一撃をアンネリーゼは背後からの不意打ちをくらったのだ。
「神楽坂!」
秋雨の声が響く。
「烈風よ、恐慌の嵐となりて、仇為す敵を切り刻め!」
凝縮され逆巻く嵐がアンネリーゼを飲み込む。
「この程度の魔法でぇ!」
「私の魔法でアンタみたいな化物を倒せるなんて思ってないわよ!」
アンネリーゼの言葉に志乃が叫ぶ。
と、シューブ=ニググラトスが動き出そうとするが、それを玲香が阻止する。
「建御名方神」
軍神の刃。
神格の力であれば腐り朽ちることなく通る。
当然、致命傷にはならないが足止め程度なら問題ない。
「メテオインパクト!」
アンネリーゼの頭上から孝也が隕石のごとく降って来る。
同時に肉薄する影が一つ。
「雷光斬!」
奏多が聖剣を薙ぐ。
「舐めるなぁ!」
が、奏多と孝也がアンネリーゼの威圧で吹き飛ばされる。
「……どいつもコイツも横から割り込んできた分際でぇ、しかも私の邪魔ばかりしてぇ……本当にムカつくなぁ!」
アンネリーゼが怒りの咆哮が上げる。




