第20話
目の前で繰り広げられる常識外の光景に奏多、志乃、孝也は呆気に取られていた。
そんな中で秋雨は一つ息を吐くと立ち上がった。
「玉水、アンタは休んでなさい」
化物二体を抑え続けている志乃は秋雨を心配するように言う。
彼女の額にはポツポツと汗が浮かんでいた。
「……アイツだけは俺の手で終わらせるんだ」
「そんなボロボロの身体であの中に混ざるのかい? 流石に僕は反対かな」
秋雨の決意に対して、孝也が首を横に振る。
「それでも、それでも俺は……」
チラリと秋雨は押さえつけられている二体の化物へと視線を向ける。
永礼の顔は拉げ、美波子の顔は苦悶に満ちている。
秋雨は少しだけ両眼を閉じて、深呼吸する。
そして、右手に水刃刀を発動する。
「神楽坂……二体の拘束を解いてくれ」
秋雨は志乃へと告げる。
「……何をする気?」
「わかるだろ、殺すんだ」
「でも、玉水……アンタのお父さんとお母さんなんじゃ――」
志乃の言葉を遮るように、秋雨は首を横に振った。
「わかってる。わかっているさ。だけど、もうどうすることもできない」
「玉水、きっと何か方法があるはずだ! 希望を捨てるには早いだろ」
「……庄司、この世界はそんなに都合の良いようにはできていないんだ。その方法を見つけるまで、ずっと神楽坂に魔法を使用し続けてもらうのか? それはできないだろ」
「それは……」
奏多は口を噤む。
秋雨はわかっている。
言う通り、時間をかければ方法は見つかるかもしれない。
だが、それはあまりにも現実的ではない。
「これは……俺の罪だ」
拘束されている二体の化物へとゆっくりと秋雨は歩いて行く。
「俺が油断した結果。俺の弱さの象徴だ」
身内が狙われると思ってもいなかった自分自身の怠慢。
想定外と言えば、言い訳もできる。
だが、それを秋雨の心は許さない。
「だから――俺の手で殺すんだ」
その言葉に三人は何の言葉も発せなかった。
志乃は静かに魔法の発動を止めた。
自由になった化物の二体は立ち上がると、近づいてくる秋雨へと突進し、向かって来る。
「――――ごめん、母さん、父さん。そして、ありがとう」
横薙ぎに一閃。
宙に奔った一文字は二体の化物を両断し、赤い軌跡を残した。
生命活動を停止した二体の化物。
それぞれの腹部にある顔は何処か安らかにも見えた。
「………………行ってきます」
秋雨は身体を玲香の方へと向けると同時に、一瞬の灼熱と輝きを感じた。
「玉水、どうするんだ?」
「きっと玲香さんに任せているだけで、この場は乗り切れる」
奏多の問いに、秋雨は答える。
玲香が頂点捕食者として権能を振るった以上、アンネリーゼも同格として戦いを挑むだろう。
それでも秋雨には、玲香が負けるイメージがつかない。
だが、それではダメなのだ――と、秋雨の心は叫んでいる。
「だけど、ダメだ。この手でアンネリーゼを殺せないのなら、俺のこの気持ちはどうすれば良い?」
誰も答えない。
家族を殺された者の気持ちを、その原因が今目の前にいる時の感情を、当事者ではないからこそ理解しようにもできないからだ。
「それに、俺は神水守の当主だ。このまま指を咥えたままでいるつもりもない」
使命を全うする。
そして、アンネリーゼを殺す。
今、秋雨を突き動かすのはそれだけ。
「……わかった」
奏多は一つ頷いて言う。
「玲香さんがとんでもない人であることは見ていて嫌でもわかる。だけど、それだけじゃダメなんだろ?」
聖剣フィニステラを手にして、玲香とアンネリーゼの戦いへと奏多は視線を向ける。
「俺が玉水の道を切り開く。勿論、志乃と孝也も一緒だ」
奏多の言葉に、志乃と孝也は頷く。
「どうして……」
秋雨は呟く。
「ま、リーダーが言うならやるしかないじゃない。あとはアンタに弱いって言葉を取り消させる為かしら?」
「僕も負けっ放しは嫌だし、玲香さんよりも僕のメテオインパクトが強いところも見せたいからね」
志乃と孝也が笑みを浮かべて言う。
「玉水、お前の気持ちを俺には推し量ることはできない。だけど、あのアンネリーゼって奴がヤバいことくらいは理解できる」
奏多は言葉を続ける。
「頂点捕食者が何だは正直知らない。だけど、舐められたままで終わる気もない」
奏多は秋雨へ向かって告げる。
「だから、一緒に戦おう。俺たちは仲間だろ?」




