第22話
頂点捕食者には頂点捕食者でなければ太刀打ちできない。
それを秋雨は玲香から伝えられていた。
同時にそれは決して諦めの意味ではないことも、更に念を押して伝えられていた。
それは古い時代の固定観念。
時代は移ろい、瞬く間に変化していく。
PHSからスマートフォンへ技術の進歩は僅か二十年程度。
ドット絵だったゲームも、今や実写と言っても過言ではないグラフィックになった。
ゲームボーイの通信ケーブルは無線となり、オフラインが当たり前だったゲームもオンラインが主流となった。
これは決して科学技術だけに当てはまるものではない。
ただの人間であろうとも、頂点捕食者を打倒する術は存在する。
「君たちじゃ、私を倒せないんだけどぉ……向かってくるのかなぁ?」
明らかに青筋を浮かべて苛立ちを隠せていないアンネリーゼが問う。
吹っ飛ばしても、痛めつけても奏多、志乃、孝也は何度でも立ち上がって来る。
黒い雲を引き戻そうにも、あちらは玲香が相手取っているため、アンネリーゼとしても無暗に動かすことができないでいた。
「当然だ。君の手によって少なくとも二人死んでいる。これ以上の悲劇を起こさせないためにも、俺は――俺たちは立ちはだかるさ」
奏多は聖剣の切っ先をアンネリーゼへ向けて宣言する。
その姿は理想の勇者像そのもの。
志乃も孝也もその宣言に大きく頷いていた。
「ま、私たちのリーダーがやるってんなら、力を貸すしかないしね」
「僕も奏多には恩があるからね。やるというなら付き合うさ」
後に秋雨は語る。その三人の姿に少しだけ英雄の姿を見たような気がした、と。
そして、どんな強大な敵であろうとも心を折ることなく立ち向かう――その姿に勇気を感じた、と。
アンネリーゼは顔を顰め、汚らわしそうに三人を見ていた。
「英雄、勇者……異世界で持て囃されて勘違いでもしちゃったかなぁ? 知ってるぅ? 勇気と無謀は別物なんだよぉ?」
「ああ、そんなことを百も承知だ。確かに無策で挑むことは勇気ではなく無謀だろうさ。だけど、俺たちは決して無策じゃない」
「無策じゃない? じゃあ、どうするっていうのかなぁ、勇者君?」
「ああ――苛立って注意力が散漫になったかい? いつまで俺たちに気を取られているんだい? 玲香さんの言葉を借りるなら……君の死神は俺たちじゃないからな」
アンネリーゼはハッとする。
しつこく食い下がってくる三人に気を取られ、最も重要な人物に気を留めていなかった。
不意の一発を打ち込んでから、秋雨は動きを見せていない。
視線を巡らせ秋雨の姿を捉えたアンネリーゼは首を傾げる。
そこには瞳を閉じ、眼前で手を組み、ただ立ち尽くした秋雨の姿だった。
「何をしているのかぁ?」
「――――愚問だな」
瞼を持ち上げ、秋雨は答えた。
普通ではアンネリーゼには届かない。
ならば、普通を超えるだけの話。
これまでの固定観念を打ち崩し、新たな観念を作り出す。
「さあ、ぶっ殺してやるよ――アンネリーゼ」
組んでいた手を両とも前へと突き出す。
秋雨の属性は水。
それは神水守家の当主として当然のこと。
今までは水だけを操ってきた。
しかし、それは新たな観念を持って塗り替える。
「術式構築完了。新しい秩序を持って、真の術を創造する」
水は液体だ。
では、個体に性質を変化させてしまえば何になるか――氷だ。
水之業・性質変化。
改め、氷之業・陽型――六花絢爛。
今の季節は夏。
だが、この時だけは極寒の世界が広がった。
「この程度が何だっていうの……さぁ……?」
アンネリーゼが足を動かそうとしたが、動かない。
「あ、凍ったぁ?」
「物理的に殺せないのなら、その身体ごと凍り付かせる。ああ、心配しなくても良い。永久凍土ぐらい創ってやるさ」
足元から徐々に凍り付いていくアンネリーゼ。
「ふざけるなぁ! この私が頂点捕食者でもない人間に負けるなんて許されないんだよぉ!」
「ふざけるな? それはこっちの台詞だ、アンネリーゼ! 俺の母さんと父さんを殺した分際で能書き垂れるなよ!」
凍結は胸を超え、遂に顔にまで到達する。
「……この屈辱忘れないから」
「知るか、大人しく凍ってろ」
秋雨が恨み節の答えを返した時には、アンネリーゼの身体は完全に凍り付いていた。




