第161話
「アンネリーゼさんってそんな凄い方だったんですか⁉」
資料を読んでいたルシアが飛び上がりそうな勢いで声を上げた。
「お兄さんとアンネリーゼさんってどっちが強いんだ?」
「それは僕も気になるね」
クロとアルトが興味津々に問う。
どちらが強いと問われると、一概には言えない。
確かに秋雨はアンネリーゼを打倒した事実はある。しかし、それは他の仲間たちの協力があったからこその結果であり、一対一となれば間違いなくアンネリーゼが優勢だろう。
——と、困り気味の秋雨への助け舟を渡さんと、部屋の扉が開け放たれた。
「やっほぉ、此処にいるみたいだからやって来たよぉ」
そんな声と共に現れたのは、アンネリーゼ。そして、無理矢理やって来たようで、彼女を引き留めようとして掴みかかっているギルド職員たちを引き摺っている。
「アンネリーゼ……」
額に手を当て、秋雨は天井を仰ぐ。
そんな様子を見て察したのか、ルビスがアンネリーゼに掴みかかっている職員たちへ声を掛ける。
「彼女は彼らの関係者です。話してあげて」
「だから言ったでしょぉ? ほら、話してよねぇ」
ルビスの言葉に従い、その手を放す職員の面々。しかし、その表情は「この女、一体何者だ?」と言わんばかりの表情だ。
「何か面白そうな話をしていたよねぇ? 私と秋雨君どちらが強いかって話だったかなぁ?」
「……聞こえてたのか?」
「そりゃあねぇ」
クスクスと笑うアンネリーゼに、秋雨は溜息を吐く。
「ま、どちらが強いか……って聞かれると、一対一なら流石に私かなぁ?」
わざとらしく胸を張って宣言するアンネリーゼ。
その言葉に秋雨は否定しない。そうなるとそれが事実であることを皆が認識する。
「ま、秋雨君の仲間たちが集まった場合は除くけどねぇ。特に神木守玲香は別格だからねぇ」
「神木守玲香?」
その名前にルシアをはじめ、クロ、アルト、ルビスが首を傾げる。
「秋雨君の師匠で、頂点捕食者。恐らく私たち頂点捕食者の中でも最強だねぇ」
「シューウさんの師匠ってそんなに強いんですか⁉」
「だったら——」
ルシアの言葉の後、クロが「一緒に戦ったら」と続けようとした。しかし、その言葉を遮るようにアンネリーゼは首を横に振る。
「無理だねぇ。何せアレは『生きる天災』と謳われるくらいに気紛れが服を着て歩いている存在だからねぇ。ま、それは秋雨君が一番よく知っているんじゃないのぉ?」
「まあ、な。玲香さんは自身に興味がないことには一切の関心を寄せない。世界存亡の危機すら知らぬ存ぜぬ。まあ、今は強者との戦いが望めるからちゃんと動いているが……」
とは言え、玲香も大人であるので五行神家としての最低限の仕事は熟している。
「他を寄せ付けない強さ故に許されているからねぇ。ま、今の私の雇い主はその神木守玲香で、秋雨君に従うようにって指示を受けているんだけどねぇ」
アンネリーゼの雇い主。彼女のような自由人を制御できるだけの力があることを、その言葉だけで皆は容易に想像できた。
「それでアンネリーゼ。何処に行っていたんだ?」
秋雨は問う。
流石に単独行動から戻って来たのだから秋雨も気になる。何よりも情報収集と言って別れたのだから猶更だ。
「そうだねぇ、言っちゃうとルクシャ・ハーナにお呼ばれしていただけだねぇ」
「……それを『だけ』とは言わないんだが?」
アンネリーゼの言葉に、秋雨は眉間を摘まみながら言う。同時に嫌な予感が最高潮に達していた。
「で、碌なことじゃない予感を犇々と感じるんだが? 一体何をした?」
「さっすがぁ、わかってるねぇ?」
秋雨は再び天井を仰ぐ。
「ちょ~っと挑発を決めたら、勇者諸共潰すって張り切っちゃたくらいかなぁ?」
「………………ルビスさん、明日狂気山脈越えで出発します」
秋雨は大きく息を吐くと、ルビスへ告げる。
「あ、明日ですか⁉」
「はい。本当ならしっかり準備を済ませたかったんですが、この馬鹿がやらかしたんで」
「馬鹿って酷いねぇ。まあ、しっかりと手伝うから心配は無用だねぇ」
そんなことを宣うアンネリーゼに頭痛を覚えつつ、秋雨はルシア、クロ、アルトへと顔を向ける。
「と、言うわけだ。悪いけど付き合ってもらうぞ。まあ、いろいろと曰く付きの場所だ。命の保証はできない以上、此処に残っても良いが?」
その言葉に三人は顔を見合わせ頷く。
「問題ありませんよ」
「お兄さんについて行くぜ」
「僕も異論はないね」
真っ直ぐに視線を向ける三人に秋雨は頷く。
「じゃ、今日はしっかり休むとしよう。ルシアは読んでいた資料の内容を後で聞かせてくれ」




