第162話
翌朝、ギルドの前に秋雨たちの姿があった。
背にはそれぞれ荷物の入ったリュックを背負い、準備万端と言った具合だ。
「個人的にはあまり良い選択とは思わないのですが、本当に行くのですか?」
ルビスが心配そうな表情を浮かべながら言う。
バスクの認めた紹介状があり、且つ剣帝アルトのお墨付きがあるとは言え、その実力を目の当たりしたわけではない彼女が心配するのは当然だ。
が、そんな心配を他所に秋雨たちはいつも通りだ。いつも通りが過ぎて、新参であるアルトまでもが心配になるほどだ。
「これから狂気山脈へ向かうと言うのに、随分と普通だね」
「まあ、オルドのことはある程度理解したが、アンネリーゼとやり合うよりはマシだよ」
昨夜、資料を読んでいたルシアから内容を全て聞いた秋雨は、その情報を踏まえた上でそう断言する。
精神汚染の能力を有している、それは確かに脅威だ。秋雨もそれについては同意する。だが、アンネリーゼの有する権能は精神汚染以前に、狂気で気を狂わせるもの。それに比べれば可愛いものでしかない。
クロとルシアもアンネリーゼの本領を目の当たりにしたことはないが、その有している権能の一端は知っていること、何よりも「秋雨より強い」ということが大きい。
「本当に、君たちを知れば知るほど世界の広さを実感するよ」
しみじみと言うアルトに、秋雨は苦笑する。同時にそれを自覚できるのなら強くなる素養があると思う。
「無理はしないようにお願いしますね」
そろそろ出発の雰囲気が漂い始めた頃に、ルビスが全員に向かって告げる。
「はい。最短でアルズベリィへ抜けるつもりです。幸い、冬季じゃなかったぶん楽ができます」
「自然はそう甘くありませんので気を抜かないようにしてください」
ピシャリと秋雨の言葉に苦言を呈するルビス。
それに「すみません。わかりました」とバツが悪そうに秋雨は答える。
そんな様子をアンネリーゼがクスクス笑う。
「怒られちゃったねぇ?」
「……悪いかよ?」
「いやぁ、珍しいこともあるなぁと思っただけだよぉ」
苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる秋雨だったが、ルビスの言葉は正論であるので何も言えない。ただ、アンネリーゼに余計なものを見せてしまったことに頭を抱える。
「彼らは大丈夫なのでしょうか?」
ルビスがアルトに問う。
「大丈夫だよ。彼と彼女は間違いなく僕より強いからね。それに僕も同行するから鬼に金棒みたいなものさ」
「そうであるなら良いのですが……。ですが、アルズベリィの情勢はギルドでも不明な点が多いです。狂気山脈を抜けても危険の可能性は大いにありますのでご注意を」
ルビスの言葉にアルトは頷く。
それを聞いていたクロとルシアも頷く。
「よし、そろそろ出発しよう。今日中に山道入口まで行こう」
秋雨の言葉に全員が頷き、一歩を踏み出す。
ルビスへ別れを告げ、狂気山脈へと向かって進む。
「……面白くなってきたねぇ?」
最後方で全員の背中を見つめながら、アンネリーゼがひとり楽しそうに呟いた。




