第159話
「お待たせいたしました」
部屋を出て数分後、ルビスがそれなりの量となる資料を抱えて戻って来た。ドン、と音を鳴らしながらテーブルの上に抱えていた資料を置く。
「狂気山脈——改め、ラムレイ山脈ですが、そこにオルドと呼ばれる古代生物が生息していることは御存じかと思います。ですが、どのような生態を有しているか……それは御存じですか?」
「知能が高く、精神汚染を得意としているくらいですね」
「なるほど、大枠としては十分です」
ルビスはそう言いながら、積み重なっている資料の中から数枚を引き抜き、テーブルの上に広げる。紙が黄ばんでいることから、それなりに時を重ねた資料であることは明らかだ。
秋雨はテーブルに広げられた資料へ目を向ける。
「……ルシア、読めるか?」
「は、はい。どうしましたか?」
「いや、簡単な文章なら読めるんだが、こうも長文になってしまうと俺じゃ難しい」
渋い表情を浮かべながら秋雨は言う。
ルシアは「わかりました」と笑みを浮かべて、広げられた資料へ目を通していく。
「では、その間に私の方からお話ししましょう」
ルシアが資料に目を通している間、ルビスが概要を掻い摘んで話をしてくれるようだ。
「オルド。嘗て、このゾティークを支配していた旧支配種族と伝えられています。ですが、ある時を境にラムレイ山脈へ生息地を追われてしまったとされています」
この話はアンネリーゼもしていた内容と被る。山脈に追われたのは頂点捕食者であるルクシャ・ハーナだろう。
「なぜ山脈に追われてしまったのか——このことについては歴史の空白期間とされており、現在はわかっておりません」
「……そうですか。つかぬことをお聞きしますが、ルビスさんは頂点捕食者という言葉に聞き覚えは?」
秋雨は問う。
すると、ルビスは少し考えた素振りを見せた後、ゆっくりと首を横に振った。
「初耳ですね。それは一体何なのでしょうか?」
「恐らく……いや、ほぼ間違いなくオルドが山脈に追われたのは頂点捕食者——ルクシャ・ハーナが原因です」
秋雨の言葉にルビスは勿論、アルトが眉を顰める。
「ルクシャ・ハーナと言えば、帝国に現れた竜人だね? そんな者がなぜオルドと関係するんだい?」
「剣帝殿の言う通りです。今を生きる者が大昔にいるワケがありません」
常識の範囲内で考えると、ふたりの言う通りだ。大昔の存在が今も存命と考えることは不自然極まりない。
しかし、それは頂点捕食者がどのような存在であるかを知っているか、知らないかの差だ。
秋雨は簡単にはなるが、頂点捕食者について話をする。
「頂点捕食者は各世界に存在する天災。人類を守護するために人類へ牙を向く存在です。常識という言葉は通用しない超常者であり、対抗できるのは同じ頂点捕食者のみと一般的にはされています。そして、このゾティークの頂点捕食者こそ、ルクシャ・ハーナです」
「……シューウ殿は何故そのことを御存じなのですか?」
「師匠が俺の世界の頂点捕食者だったということ。大昔に俺の世界へルクシャ・ハーナが攻めて来ていた。その際に封印を施した一族の末裔が俺だからですね」
ルビスは驚いた表情を見せ、考え込む様子を見せる。
「なあ、その感じだとルクシャ・ハーナとは一戦交えてるのかい?」
「ああ、封印が解かれた際に正面からやり合ってる。まあ、止めを刺せず逃げられた結果が今だけどな」
「ん? 頂点捕食者は同じ頂点捕食者でしか対抗できないって言っていたはずでは?」
「あくまで一般論としての話だよ。まあ、あの時はルクシャ・ハーナが目覚めたばかりだったこともあったけどな」
当時を思い出しながらゲンナリとした表情を浮かべつつ、秋雨は言う。
——と、ルビスが口を開く。
「ルクシャ・ハーナに追われて山脈へ追い込まれたことを事実だと仮定したのなら、そのルクシャ・ハーナを撃退した実力を加味すればラムレイ山脈越えも現実味を帯びますね」
ルビスの言葉に秋雨は頷く。
「追加で情報を述べると、今別行動をしているアンネリーゼは頂点捕食者ですね」
その言葉にこの場にいた者皆が目を見開いた。




