第158話
応接室は建物二階の奥の方に位置している場所にあった。
ここまで案内をした女性が扉をノックすると、中から応答がある。
「失礼します」
そう言って扉を開けた先に、腰まで伸びた白髪を持つ女性が立っていた。
「案内ご苦労様。下がっていいわ」
その言葉を受け、案内をした女性は一礼し退出する。
——と、白髪の女性が和やかな笑みを浮かべ、椅子へと手を向ける。
「どうぞお掛けください」
秋雨たちは促されるままに、それぞれ椅子へと腰を下ろす。
白髪の女性もテーブル越しに秋雨の前に腰を下ろした。
「さて、まずはアルト殿はお久しぶりですね。アナタの活躍はお伺いしています」
「ありがとうございます。ただ、僕もまだまだ足りていないってことを最近自覚たよ」
「そうですか。どうやら、良い出会いがあったようですね」
白髪の女性はそう言って、秋雨へ興味深そうな視線を向ける。
「まずは自己紹介ですね。はじめまして、私はルビス・ルティアナ。この冒険者ギルド・セイレム支部の支部長、及び共和国のギルドマスターを担っています」
「よろしくお願いします。俺は神水守秋雨——ファーストネームが秋雨。ファミリーネームが神水守です」
「あら? 勇者カナタ殿と同じ感じみたいですね?」
「同じというか同郷です」
その後、それぞれ自己紹介を終え、再びルビスが口を開く。
「さて、詳細はバスク殿の紹介状である程度把握しております。各地に現れている正体不明の魔物についても至急対策を立てるつもりです」
どうやらバスクの認めた紹介状には収獲者についての記載があったようだ。
「それでシューウ殿はアルズベリィへ向かいたいのですね?」
「はい。何とかアルズベリィへ向かいたいと考えています」
「そうですか……と、なると今は中々難しい状況です」
ルビスはそう言って険しい表情を浮かべる。
「現在、海路は帝国による睨みがキツくなっています。また、つい数日前に帝国により国境が封鎖されました」
その情報は初耳だ。
秋雨は眉間に皺を寄せて、口を開く。
「理由は?」
「国内情勢を鑑みて……と通達されています。が、詳細は不明です。情報集めに努めていますが、有力なものはありませんね」
「なるほど……」
秋雨は顎に手を当てながら、アルズベリィまでの道程の選択肢を考える。
帝国の国境が封されているとなれば、選択肢として完全に無くなってしまう。厳密に言ってしまえば、無理矢理突破することも可能であるが、下手に事を荒立てる必要はない。
海路は帝国の睨みがキツいのなら、そもそもアルズベリィまで乗せてくれる船も無さそうだ。
「そうなると狂気山脈越えしかなさそうか……」
「……狂気山脈を越えてまで、道を急ぐ必要があるのですか?」
「秋雨、僕としても狂気山脈越えはオススメできないぞ?」
クロとルシアには狂気山脈越えが選択肢としてあることを知っていたので驚いてはいなかった。しかし、加入したばかりのアルト、初対面のルビスはそんなことを知る由もないのだから、目を見開いて驚いている。
「可能な限り早く——勇者と合流したいと考えています」
「……そうですか。私としては国境が開かれるまで待つべきだと思います」
「まあ、安全面を考えるとそうでしょうね」
しかし——と秋雨は首を振る。
「帝国の、ルクシャ・ハーナの手がアルズベリィに迫っている以上、必要以上の足止めはしたくないんです」
秋雨の言葉にルビスの表情が更に険しくなる。
「そうですか。では、シューウ殿はオルドについてどの程度ご存じですか?」
「オルド……と言うと、狂気山脈に生息しているって奴ですよね?」
「ええ。その様子だとあまりご存じではないようですね?」
ルビスは立ち上がる。
「少々お待ちください。オルドについての資料をお持ちします」
そう言ってルビスは小走りに部屋を退室した。




